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社会のリーダーになる人の「決断科学」とは?

矢原徹一氏に聞く「意思決定はどう生きるか、人とどうかかわるかの問題」
 ―『決断科学のすすめ』を執筆した狙いは。
 「混沌(こんとん)とした時代の中で羅針盤となるような学問が求められていると思う。人間の行動生態学を基本に社会問題を考える学問をつくれば、オールラウンドな学問になると決断科学に取り組んできた。この本は私が勉強してきたことをまとめた。例えば大きな災害が起こると、いろいろな専門分野をつないで体系的に解決しなければならない。しかし行政は縦割りで科学者も政治家もできない。そういう状況ではオールラウンドが求められる。ただ、広く勉強すればいいということではない。軸になるプリンシプル(原理原則)が大事で、それを整理したかった」

 「あらゆる問題は人間の意思決定が引き起こすので、意思決定を理解すれば問題解決に役立つ。決断科学は社会のリーダーになる人のための科学だ。今の時代は人類の転換点であることは間違いない。それがどういう時代なのか認識する必要がある。科学に基づいて時代を見る目を持ってもらえると思う」

 ―読みやすく、スポーツやアイドルなども取り上げています。
 「扱ったテーマはすべて論文の裏付けをとっている。本や論文を読み、咀嚼(そしゃく)して書いた。科学的な分析に依拠しながら時事的なテーマを取り上げた。学生にも常に身近なテーマから考えてほしく、政治を避けず、アイドルも取り上げた。環境問題と言えば漠然としているが具体的な問題について考えることが大事だ」

 ―リーダーをテーマにした本は多くあります。違いは何ですか。
 「プリンシプル、エビデンス(科学的根拠)に基づいて考えるのが科学の基本。リーダー本の多くは成功者の経験に基づき、ある程度は一般化して書いているが同じように行動しても失敗する場合がある。個別の経験則ではなく、人間とはどういうときにどんな行動をするのか、どんなリーダーについていきたいと思うかという一般的な問いに答えた」

 ―リーダーに限らず幅広い読者にとって示唆に富む内容です。
 「ある意味、すべての人が自分の人生におけるリーダーでなければならない。意思決定はどう生きるか、人とどうかかわるかの問題だ。受け身ではなく、主体的に考えて生きていきたい人に読んでほしい」

 ―今後の抱負は。
 「決断科学という文理融合のきちんとした体系をつくれたと思っている。なぜこれまでそれができなかったのか。研究者は自分の専門分野で論文や本を書いて評価される立場であり、専門分野を超えて幅広く勉強しても業績にはならなかったということが言える。文理融合のプロジェクトはこれまでいくつもあった。とはいえ論文を書かなければならないので、自分の専門分野をベースにしながらプロジェクトが終了すればおしまいということが続いてきた」

 「しかし、今回は本気で勉強して専門分野を統合してきた。人間の進化をベースに心理、行動、社会性を体系的に理解したいという思いで書いた。教養課程のテキストにもなると思う。まだスケッチの段階だが骨格はできた。今度は人間社会生態学の教科書のような本をつくりたい」
(聞き手=西部・関広樹)
矢原徹一氏 九州大学持続可能な社会のための決断科学センター長

【略歴】
矢原徹一(やはら・てつかず)氏 九州大学持続可能な社会のための決断科学センター。82年(昭57)京大院理学研究科博士課程単位取得退学、83年東大理学部付属植物園助手、91年東大教養学部助教授、94年九大理学部教授。専門は生態学・進化生物学。福岡県出身、63歳。
日刊工業新聞2017年12月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
「みんな目の前の起きた問題を解決しようとする。実際には、それは問題の結果生じた症状に過ぎない」(ドラッガー)。解決策を一生懸命考えることよりも、まず問題の質を高めるの方がとても重要。先日開催された、ある経営者のワークショップのテーマです。

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