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GEが育てる新しいマネージャー「ピープル・リーダー」とは?

管理する能力よりチームを“リード”できる存在
 皆さんにとって理想の上司とは、どんな人ですか?時代や人、働き方の変化に伴って、理想の上司像も変化してきているようです。部下に「どうしたらいいのか分からないのですが…」と訊かれて、「俺はこうしてきた!」「自分で考えろ!」などと答える上司はもう時代遅れかもしれません。

 考えてみてください。現在、世界も人もそしてGEもめまぐるしいスピードで変化しています。

 VUCAワールド[Volatility(変動性), Uncertainty(不確実性), Complexity(複雑性), Ambiguity(曖昧性)]とも呼ばれる今日の世界は、かつてないほど先を見通すことが困難な状況です。

 例えば、Uber社やTesla社、Airbnb社に代表される破壊的イノベーションが市場の構図や構造をも激変させつつあり、また、地政学的なリスクも予断を許さない状況です。その変化のスピードは指数関数的で、意思決定や実行の遅れは致命的です。

 同様に、企業を構成する「人」も大きく変化しています。例えば、「ミレニアル世代」。1980年代から2000年代に生まれたこの世代は、幼少期からデジタル化された生活に慣れ親しんだ「デジタルネイティブ」と呼ばれる人たちです。

 そのため、分からないことを「ググって」解決したり、プッシュフィードで情報を受け取ることに慣れていたり、SNSの「いいね!」のように他人の共感や評価を重視する傾向にあります。

 彼らは、30代半ば以上の世代とは異なる職業観や価値観を持っています。実は、GEグローバル全体を見てみると、このミレニアル世代が増加傾向にあり、中には50%近くを占める国や地域もあります。彼らがこれからのグローバルな社会現象をリードしていくことは間違いありません。

 こうした環境下でリーダーに求められているのは、世界と人のめまぐるしい変化の中でも成果を出せるチームをつくること。この時代において、チームを統制し牽引する「絶対的」な上司像はもはや通用しません。

 GEでは部下を持つ社員のことを「ピープル・リーダー」と呼び、新しいリーダーシップ・スタイルを実践しようとしています。これまでGEでは、その層を“マネージャー”と呼んできました。

 しかし、これからの時代に求められているのは人を管理する能力に優れた“マネージャー”ではなく、チームを“リード”できる存在であると考えています。

 変化のスピードが現在よりも緩やかで先行きもある程度予測できた時代、マネージャーは進むべき方向や方法を示し、指示に従わせるための管理や指導を行うことが役割の中心でした。

 しかし、先の未来を誰も予測することができないほどに変化のスピードが増している今、ピープル・リーダーに求められているのは問題の絶対解を提供することではなく、チームメンバーの強みを最大限に引き出し、協働によって迅速な課題解決を促す環境づくりです。

 それでは、具体的にピープル・リーダーにはどんな行動が求められているのでしょう?GEではチーム、働く環境、仕事、成長の4領域において、ピープル・リーダーに次のようなコミットメントを求めています。
                     


 GEクロトンビルでリージョナル ラーニングリーダーを務める牛島仁氏は上図のコミットメントについてこう説明します。

 まず、チームに対して。「チームメンバーの理解は各メンバーについて実務スキルレベルで何ができて何ができないか、あるいは何が得意で何が苦手かという表層的な範囲では不十分です。仕事を通じて何を実現したいと思っているのか、何をやりがいとしているか、モチベーションはどこにあるのかという深いレベルでの理解が必要です」と牛島氏は話します。

 チームメンバーのホットボタンとコールドボタンを把握できていれば、チーム内の過度なストレスや不要なコンフリクトを未然に防ぎ、生産的で建設的な議論をすることができます。

 働く環境に対して、先ずピープル・リーダーは組織カルチャーの支持者であることが求められています。なぜ会社がカルチャー変革を推進しているのか、ビジネス環境やそれに伴う戦略全体のコンテクストをしっかりと理解し、メンバーに“make sense(筋が通る・理解できる)”してもらえるセンスメーカーとなる必要があるのです。

 更にピープル・リーダーはチームのメンバーを信頼し、個々のメンバーが自分の仕事に自信と責任を持って取り組めるようにすることも大切です。

 加えて、安心して新しいことを試すことができ、継続的に学習できるよう支援することも求められています。牛島氏の言葉を借りれば、今必要とされているのは、「命令をして統制を図るコマンド&コントロール型のマネージャーではなく、対話を通してチームを理解し、尊重し、信頼して任せる、エンパワー&インスパイヤー型のピープル・リーダー」です。

 仕事に対しては、常にお客様の視点で取り組み行動することを求めます。社員の行動規範とも言えるGE Beliefsの1番目はCustomers determine our success(お客さまに選ばれる存在であり続ける)。ピープル・リーダーはお客様の課題解決を“リード”し、確実にインパクトを生みだしていかなければなりません。

 またGEでは現在、SmartWork@GEという多様な働き方を推進しています。コアタイムなし拡大フレックスや在宅勤務などのリモートワーク (Work From Anywhere)、時短勤務などの制度を更に拡充していますが、こうした制度の柔軟性にある本質は、お客様に最良のインパクトを提供することに加え、主体的に効率よく働き、時間をつくること。それぞれが学び続け、より成長することに時間をつかうことを可能とし、ピープル・リーダーはこれを支援していくのです。

 一方、ピープル・リーダーの役割は、チーム内の効率を上げメンバーの能力を最大限発揮させることに留まりません。「必要であれば他のチームやビジネス領域との積極的なコラボレーションを推進し、より大きなインパクトを生むことも重要」と牛島氏は言います。

 成長について言えば、ピープル・リーダーの大切な役割は人の育成です。このため、チームメンバーの成長を促すコーチングを行うことが求められます。

 相手の発想を促すような質問の達人となり、メンバーのアイデアや可能性を最大限に引き出すこと。ここで一番重要になるのはチーム一人ひとりとの対話です。

 対話を重ねる中で積極的にフィードバック(GEでは「インサイト」と呼んでいます)を提供し、それを受け容れる環境をつくっていくこと。パフォーマンス評価についても従来型の年に1~2回というサイクルではなく、日常的に「タッチポイント」と呼ばれる対話の場を持ち、カジュアルで双方向の会話を通して気付きを得る方法をとっています。

 これは、SNSで即時の反応を求める傾向にある「ミレニアル世代」にも有効です。GEは社員が時代に合ったかたちでコミュニケーションを図り互いを高められるよう、こうした仕組みや場を調え、提供しています。

 GEの社員33万人のうちピープル・リーダーと呼ばれる人は約3万3000人。そのうち、日本には340人強のピープル・リーダーがいます。

 GEではその層全員に対して全世界共通のトレーニングを行っており、対象者は所属組織や社歴の長さ、肩書きに関係なく一人のリーダーとして参加します。

 講義などの座学ではなく、他の参加者との対話をベースに内省的学習を促すこのトレーニングでは、参加者は改めてカルチャー変革の理由やその意義を再認識し、ピープル・リーダーとして期待されることと現時点における自身のギャップに気づかされます。

 ここでの学びを現場で実践しているピープル・リーダーからは、「自分よりも若い世代から刺激を受けた」、「同じメッセージでも一人ひとり受け取り方が違うことに気づいた」、「チームの理解がまだまだだったことに気づいた」などの声が寄せられています。

 変わりゆく世界の中で、企業として勝ち続けていくことは簡単なことではありません。不確実な世界の中で結果を出すためには、職位も組織の枠組みも超えた、人と人との繋がりがますます重要になっています。

 複雑かつめまぐるしいスピードでビジネスが変化していく現在だからこそ、より一層、人と人との関係において大切なことは原点に戻ってくるのではないでしょうか。

 対話を重視すること、他者を尊重し、違いを認めて受け容れ合うこと、信頼すること。真のピープル・リーダーの核にあるのは「心の豊かさ」とも言えます。

 人と人とのエモーショナルな繋がりを前提とするこのリーダーシップのあり方は、ある意味では、かつてと比べて責任も重く難しいものかもしれません。しかし、人の「心」を大切にするリーダーこそがこれからの会社のキーパーソンになるとGEは考え、育成をすすめています。
GE REPORTS JAPAN
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
課題解決の方法が自分の中にない、ということを最近とてもよく感じることです。

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