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地価上昇の裏で止まらぬ空き家率。どうなる日本の土地利用

不動産登記、制度見直しを
地価上昇の裏で止まらぬ空き家率。どうなる日本の土地利用

東京・奥多摩町には多くの空き家がある

 土地は人々が集ってこそ富を生む。国土交通省がまとめた2017年の基準地価(7月1日時点)によると、全国の商業地の地価が10年ぶりに上昇に転じた。日本経済全体を底上げするためにも、土地を使いやすくする環境整備を進め、価値を高めたい。

 都道府県が公表する基準地価は、国の公示地価(1月1日時点)とともに土地取引の指標となる。公示地価が主に都市計画区域内の土地を対象にしているのに対し、基準地価は都市計画区域外の林地などを含み、国内の平均的な地価動向を把握できる。

 東京、大阪、名古屋の三大都市圏の商業地は前年に比べて平均3・5%上昇し、東京・銀座の最高額地点はバブル期の90―91年を上回った。商業地は三大都市圏に加え、札幌、仙台、広島、福岡の地方中枢4市がけん引し、前年比0・5%上昇。一方、住宅・工業地を含む全国・全用途では、マイナス幅が8年連続で縮小したものの、同0・3%下落した。

 注目されるのは地方中枢4市の地価上昇率だ。4市の商業地は同7・9%上昇し、三大都市圏を4・4ポイント上回る。住宅地も三大都市圏の同0・4%上昇に対し、中枢4市は同2・8%上昇した。三大都市圏では開発適地が減り、事業用地の確保が難しくなっていることも背景とみられ、地方圏で人口増加が続く中枢4市の不動産需要が高まっている。

 実際、全国の用途別地価上昇率トップ10の中に、住宅地で三大都市圏は入っていない。商業地も20%超を記録した銀座の基準地はランク外で、東京圏はない。住宅地の1位はスキー場があって海外富裕層の別荘需要が旺盛な北海道倶知安町、商業地1位は訪日外国人観光客に人気を集める京都市伏見区の伏見稲荷大社近くの基準地だ。

 他方、土地を巡っては不動産登記が更新されず、所有者不明で地域の再開発を妨げている事例もある。国交省は今月、この問題を検討する有識者会議を創設しており、早期の制度見直しを進めてもらいたい。

日刊工業新聞2017年9月20日



大阪・泉州11市町で連携対策


 大阪府南部の泉州地域で、岸和田市、和泉市、岬町など7市4町にまたがる空き家対策が動きだした。大阪府宅地建物取引業協会(宅建協会)の泉州支部が市・町の担当者やりそな銀行と協力して五つの事業案を作成。府内の他地域などに広げられる成功事例を作ろうと意気込んでいる。

 「ここ数年、空き家を扱う仕事が増えてきた」。こう話すのは宅建協会泉州支部副支部長を務める笹倉太司エスクリエイト(岸和田市)社長。これまで自社で空き家所有者の相談に応じ、リフォームや賃貸管理などを提案してきた。その中で、「事業者が個別に発信してもなかなか認知されない」という課題も感じていた。

 そこで泉州支部内のプロジェクトチームで空き家対策事業の検討を開始。地域活性化を支援するりそな銀行の協力を得て、市・町の担当者や住宅・不動産事業者などを集めたワークショップを2月から計4回開催した。

 そこで生まれたのが、(1)空き家利用希望者のニーズ収集(2)高齢所有者の啓発活動(3)空き家問題相談所(プラットフォーム)の構築(4)宅建協会と行政を中心とする定例会議の開催(5)7市4町共通のキャッチフレーズを使った情報発信―という五つの事業案だ。

 25日には電力会社、大学、ケーブルテレビ事業者、空き家利用希望者、民間非営利団体など、今後事業に関わってほしい関係者を一堂に集めて事業案の説明会を開く。参加者の意見を聞いて事業案を再検討し、泉州支部で順次事業化していく。市・町には可能な案の施策化を呼びかける。

 総務省によれば2013年時点の日本の空き家は過去最高の820万戸に達し、総住宅数に占める割合も13・5%に高まった。人口減少が続く中、この割合はさらに高まる見通しだ。

 空き家は周辺地域に倒壊、治安・景観の悪化、近隣住宅の価値低下などの問題を招く恐れがあり放置できない。そのため国もこの問題に対応するため「空家等対策の推進に関する特別措置法」を15年に施行している。

 数々の地域活性化プロジェクトに関わってきた藤原明りそな総合研究所リーナルビジネス部長は「市・町をまたぐ空き家対策の取り組みは全国でも珍しい」と話す。今回まとめた五つの事業案も事業者や市・町の関係者と一緒に作成したため、「地域の強みが生きる事業案になった」と自信を見せる。

 個別の市・町とその地域の事業者だけの取り組みでは、活用できる空き家数も少なく、隣接する市・町間で利用希望者や転入者を奪い合うことになる。泉州という広域で共通の事業を展開すれば、空き家数も増え、利用・定住希望者に広く情報発信して泉州外からも人やビジネスチャンスを呼び込める。泉州支部は「成功事例や経験を大阪府などの、さらに広い地域に広げたい」と泉州発の事業化を急ぐ。
(文=大阪・錦織承平)

日刊工業新聞2017年4月25日



2033年には空き家率が3割超す


 野村総合研究所(NRI)の調査によると33年には空き家数が約2170万戸となり、空き家率は30・4%に増加する。現状の2倍以上に膨れ上がるため、空き家問題は一段と深刻化する見通し。

 空き家は管理が適切に行われず、景観が悪化して地域のイメージが低下するなど、周辺環境に及ぼす影響が大きい。ゴミの不法投棄を放置すれば衛生上有害となり、さらに不審者の侵入など治安の悪化につながる。

 政府は15年に空き家対策特別措置法を全面施行したが、市町村が行う具体策を定めておらず、調査から活用までの道筋を描きにくいのが現状。空き家問題の解決に向け、IT活用が注目される。
                   

日刊工業新聞2016年6月15日

加藤年紀
加藤年紀 Kato Toshiki
本記事の最後の一文、まさにそう思います。そして、不動産活用で土地よりもさらに気になるのが上物(建物)。地方を筆頭に「空き家問題」という話は随分前から聞きますが、新設住宅着工戸数は2009年から微増トレンドで2016年は約97万戸。人口減少も相まって、2033年時点では2000万戸を越える空き家予測が主流。これによって、実勢価格の低下が進むと思われる。逆に、空室率の上昇を好意的に見る面があるとすれば、消費者側の目線として、上物の賃貸料が安くなること、安価で購入することが期待できる。

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