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『未来シャッター』2年のロングラン上映、“心のシャッター”を開いた理由

役者は中小製造業の社長たち、鑑賞後の対話を通じ価値の再創造を行う
『未来シャッター』2年のロングラン上映、“心のシャッター”を開いた理由

キネマ通り商店街にたたずむキネマフューチャーセンター

 ワップフィルム(東京都大田区、高橋和勧理事長)が製作した映画「未来シャッター」が2年のロングランを迎える。高橋理事長自らが監督を務め、東京都大田区、同墨田区、神奈川県藤沢市を舞台に、製造業の社長などさまざまな職業の人々が役者を務めた。限られた場所での上映にもかかわらず、いまだ人気は衰えない。商店街に溶け込む上映拠点に潜入した。

 京急蒲田駅を降りて5分ほど歩くと、商店街「キネマ通り商店街」が見えてくる。精肉店など昔ながらの店が並ぶ同商店街を進むとたどり着くのが「キネマフューチャーセンター」だ。月2回ある同映画の上映日は高橋理事長と菊地真紀子プロデューサーが笑顔で出迎えてくれる。

 この映画は現在の社会に生きづらさを感じる青年らが、さまざまな人間との関わりを通じて変わっていくストーリー。下町ボブスレーネットワークプロジェクト推進委員会初代委員長の細貝淳一マテリアル社長や、コマ対戦の“おかしら”を務める緑川賢司ミナロ社長をはじめとする、多くの中小製造業の社長が役者として出演している。「モノを作る人に着目すると、自然と製造業の社長が多くなった」という。

 照明を手がけた日本映画テレビ照明協会の西野哲雄副会長は「みんな映画が好きだったんだなと思った。

 映画作り専属の人よりも勉強しているかも知れない」と実感を漏らす。普段、真剣な表情でモノづくりに挑んでいる社長たちの、初々しい演技も見所の一つだ。

 鑑賞後は、高橋理事長、菊地プロデューサー、来場者で話し合いの場を設けている。映画の感想や明日から取り組みたいことなど、さまざまなことを自由に語り合う。映画を見るだけにとどまらず、次の行動につなげるという今までにない新しい鑑賞スタイルとなっているのも特徴だ。

 高橋理事長は「鑑賞後の対話を通じて、価値の再創造を行うのがこれまでの映画と最も異なる点。来場した皆さまに自分の境界線を越えて一歩踏み出してもらいたい」と笑顔をみせる。
マテリアル社長・細貝さんも出演((C)ワップフィルム)

居場所のない人たちに居場所を作る


 映画自体は高橋理事長が映画講座「リージョンフィルムネットワークプロジェクト」を進める中で、できあがった。同プロジェクトで話し合いをする中、「居場所のない人たちに居場所を作り、集まればおもしろいことができるのではないか」と発想し、「キネマフューチャーセンター」を開設した。

 この場を拠点に街の未来を語り、実践する「フューチャーセッション」を開催するようにもなった。それが、自然と映画作りにつながった。

 中核にいた菊地プロデューサーは「こんなのがあったらおもしろいね、と話しながら未来を描いていった。ストーリーを含め、全て話し合いで作り上げた」と振り返る。

 製作の過程でプロフェッショナルの力も自然と集結してきた。音楽は東京都大田区在住の作曲家でピアニストの川崎ろまんさんが担当。アーティストをも巻き込んだ地域の活性化につながった。

 川崎さんは「監督に話を聞きながらその場で音をつけた。人の思いはその場で形にするのが一番説得力がある。町工場の廃材で作った楽器の音も使っているので、楽しんでほしい」と笑顔をみせる。

 「キネマフューチャーセンター」は、ワップフィルムが運営する空き家を利用したインキュベーション施設でもある。

 創業支援が行われているほか、コミュニティーカフェやコワーキングスペースとしても活用されている。地域活性化拠点として存在感を示している。

 映画はキネマフューチャーセンター以外でも、企業の研修などさまざまな場所での上映実績がある。その会場は2年間で100カ所を超えた。高橋理事長は「人を幸せにする映画を作りたいと思った。そして、幸せを分かち合いながら、これを高められれば」とその熱い思いを吐露する。

 映画には製造業や商店街を舞台にしながら、人の暖かさがちりばめられている。キネマフューチャーセンターは今後も地域経済の活性化拠点であり続ける可能性を十分に持っているとも言えよう。
オープンシャッターポーズで出迎えてくれた制作者陣

(文=南東京支局・門脇花梨)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
全ての人の“心のシャッター”を開き、映画ならではの「幸せ」を贈るべく、高橋理事長と菊地プロデューサーの二人三脚での挑戦は終わらない。 (日刊工業新聞南東京支局・門脇花梨)

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