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800万戸を突破した空き家が日本を蝕む! 住宅流通のルールは変わるか

個人向け不動産コンサルの第一人者、長嶋氏が語る「家を売るに売れない」理由
 ―空き家が全国で800万戸を突破しました。
 「先進国の中でも日本の空き家率は突出して高い。地方では10年以上前から空き家が増え続けているが、東京23区内でも特に下町の住宅密集地では建て替えもできず、取り壊し費用もかかるため『売るに売れない』家が増えている」

 ―空き家の急増はどんな問題を引き起こすのでしょうか。
 「不法侵入によるいたずらや放火など、空き家は犯罪の温床になる。老朽化した建物が崩れる危険もある。なにより街の価値全体が毀損していくことが問題だ。住む人がまばらになればインフラの整備や行政サービスの効率が悪化し、やがて街として成立しなくなる。こうした事態は全国各地で起こる可能性がある」

 ―なぜ空き家は増え続けているのでしょうか。
 「新築住宅の建設は景気対策として繰り返し後押しされてきた。住宅の全体計画はなかった。次の消費増税を乗り越えるまでは新築住宅の抑制は難しいだろうが、その後は供給計画をきちんと作り、計画的な新築住宅建設を進めるべきだ。新築偏重の住宅政策からの転換はどの先進国も通りすぎてきた問題であり、日本でも『中古住宅がいい』という価値の転換、流通量の増大がなされなければならない。本書の主張も『時代に合わせてゲームのルールを作り替えよう』ということに尽きる」

 ―国の政策にも新築住宅偏重からの転換が見られます。
 「中立の立場で住宅を診断する専門家『ホームインスペクター』と、住宅情報のデータベースという二つの要素がそろうと変わってくる。個人的な試算では、中古住宅流通が将来200万戸を超えた場合、ホームインスペクターは3万8000人必要になる。育成を急ぐべきだ」

 ―今の現役世代では、両親が郊外の持ち家で暮らしているケースが多いのでは。どう対処すればよいでしょう。
 「経済合理性で言えば1秒でも早く売却するべきだが、心情的には難しいかもしれない。空き家を子育て世帯や障害者世帯に賃貸するなど、国の新しい政策に期待して持ち続ける選択もあるだろう」
(聞き手=斎藤正人)
 
 【著者プロフィール】長嶋修(ながしま・おさむ)
 ポラスグループ(中央住宅)を経て、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立、現会長。中央省庁などの委員を歴任、2008年にホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長を務める。『「マイホームの常識」にだまされるな!』など著書多数。東京都出身の47歳。

 『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社刊)
日刊工業新聞2015年05月04日 books 面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
住宅市場は戦後、日本経済の矛盾が集約的に表れている。特に政府の新築持ち家に偏った住宅投資と、借地借家制度が賃貸住宅市場の発展を阻んできた。責任は行政、司法、住宅産業とも共犯。行政は戦後、住宅政策について“居住福祉”という論理で管理統制してきた。その結果、公営住宅と民間家賃の凄まじい乖離が起こった。司法の責任も大きい。戦時立法である借地借家法の正当事由を適用し、借家人を安い家賃で居続けさせた。大家は新規家賃でそれを補てんし入居時に厳しいスクリーニングをしていた。住宅産業は日本人の持ち家、土地神話に迎合し高コストの住宅を供給し続けた。この10年で政策は徐々に変わってきたが、まだ住宅市場には古い常識と、取引慣行が残っている。

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