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大手では得られない!中小企業のインターン体験あれこれ

「作る、売る、買うの全てを体験する」人手不足、アイデアで打ち勝つ
大手では得られない!中小企業のインターン体験あれこれ

アリスのオーダーメード実習プログラムでABS樹脂を磨く大阪工業大の学生

 中堅・中小企業が学生確保に苦心している。マイナビ(東京都千代田区)が実施した2018年卒業予定の全国大学生・大学院生を対象とした調査によると、8月末時点での内々定率は82・7%。前年同月を5・2ポイント上回り、売り手市場の傾向が明確になった。そんな中、中堅・中小企業が有効な手段とするのがインターンシップ(就業体験)。知名度アップや入社後のミスマッチ防止につながるとして、活用が広がっている。厳しい人手不足をアイデアで乗り切ろうとする中堅・中小の取り組みを追った。

 生産機械設計などを手がけるスズキ機工(千葉県松戸市、鈴木豊社長)は、「作る、売る、買うの全てを体験する」というプログラムを作った。

 学生が社員とともに企画、製作した製品を、自社運営のインターネットショップで実際に販売する。価格も学生が考え、「価値を生む」工程を学ぶ。

 終了後、自分の作った製品をショップで購入、自宅に届く。新卒定期採用へ向けてインターンシップを企画しても、学生は大手企業に流れ、中堅・中小には来ない。そこで学生が本当に興味を持つ内容を考えてプログラムを作成した。

 鈴木社長は「モノづくりには、製造だけでなく広告や販売、流通と多くの構成要素がある。それらを全て体感した上でしたいことを見つけてもらえれば、マッチング率も自然と高まる」と効果に期待する。

協同工芸社、看板製作を5日間体験


 看板製作の協同工芸社(千葉市美浜区、箕輪晃社長)は2014年にインターンシップを開始。15年以降は新卒採用が増え、毎年10人以上の採用を維持している。千葉大学など、これまで実績のなかった大学、大学院からも新卒採用が続く。箕輪社長は「大手企業を落ちてから応募してくる人は採らない」との採用方針を徹底しているという。

 人気なのは理系学生向けの5日間のプログラム。デザインや溶接などの看板製作工程を体験する。毎回40人以上の応募がある。外国人留学生や女性の応募も多く、多様な人材採用につながっている。

 今年からは営業向けのインターンも始めた。看板提案や採用担当者と就活へ向けた自己分析などのプログラムで、仕事のイメージが湧きづらい文系の採用増加につなげる狙いだ。

アリス、好奇心刺激に強い手応え


 試作を手がけるアリス(大阪府東大阪市、宮本賢次社長)は、学生のインターンシップに「あえてルールはつくらない」(宮本社長)との考え。専攻にも縛られないという。

 同社では学生の希望を個別に聞く。その上で、経営の一連の流れを知りたい学生には、顧客との打ち合わせや見積書の作成、納品を一緒に実施する。

 今夏、体験した大阪工業大学の学生は電子情報通信工学が専攻。だが、学生が「モノづくりを体験したい」と希望したため、現場作業が中心だ。

 オーダーメードの実習プログラムは学生の好奇心を刺激し、満足度が高い。宮本社長は「以前来た学生は最終日に『またお世話になるかもしれません』と言ってくれた」と、強い手応えを感じている。

日本エムティ、工業高との関係作り


 日本エムティ(愛知県春日井市、伊藤豪則社長)は7月に初めて、インターンシップを実施した。春日井商工会議所が愛知県立春日井工業高校の学生に対し、地元企業に興味を持ってもらうために企画。その受け入れ先として手を挙げた。

 同社は自動車の摺動(しゅうどう)部品向けのドライ潤滑コーティングなど表面処理を手がける。同高校の2年生1人が1日間、スプレーガンによる塗装工程を体験した。同社はここ数年間、地元高校生を採用できていない。伊藤社長は「インターンシップの効果がすぐに出るとは思っていない。工業高校との関係作りにつながれば」と、長期的に取り組む構え。

プロトワーク、学生の発想 新製品に


 プロトワーク(大阪府守口市、田村常之進社長)は、10―11年に大学生のインターンを受け入れた。学生の発想を生かして自社の家庭向け洗剤詰め替えボトルの機能とデザインの改善に取り組み、1回当たりに吐出する液体の量を減らすなど環境に配慮した新製品「エコポン」を開発。現在まで約5万個を販売した。

 インターン受け入れについて田村社長は「社内の弱みを補う」ことに着目。自社製品の開発と販売にあたり、部署新設などではなく「学生の発案力を取り込み功を奏した」という。

 12年以降も継続的に募集しているが、今のところ受け入れまで至っていない。次にインターンシップで受け入れた学生には「人事を担当させたい」(田村社長)。学生の視点から新卒採用の戦略を練ってもらう。

デジタルモンキー、100万円支給


 ゲーム開発のデジタルモンキー(東京都目黒区、天野祐樹社長)は通常の長期インターンシップの受け入れに加え、4月に新規事業インターンを始めた。学生に100万円と半年の期間を与え、自由に仲間を集め、事業を考えてもらう。

 リーダーの学生は外国人観光客向け事業を手がけるため、国際交流に興味がある学生に声をかけ、5人のメンバーで事業を考えている。

 天野社長は「従来のゲーム事業からのアプローチでは、出会う可能性が低かった学生たちと会うきっかけになった」と予想以上の効果を実感している。
                   

(文=千葉・曽谷絵里子、名古屋・戸村智幸、東大阪・坂田弓子、大阪・中野恵美子、大串菜月)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 文部科学省によると、インターンシップの実施大学数や参加学生数は97年以降拡大し、全大学の72・9%が単位認定(2014年度)している。これ以外にも企業が独自に募集したインターンシップに対し、学生が大学等を介さずに個人で応募・参加する事例が多数あると見られる。16年度に文科省が行った調査では、6割近くの学生が就職支援サイトや企業に直接個人が申し込み、企業の56・7%が独自で募集している。  大学等が実施・把握しているインターンシップの実施期間は5日以上1カ月未満が8割強。これに対し企業・学生の5割程度が5日未満の実施・参加で、特に1日だけの実施・参加は企業が44・8%、学生は28・3%と多数を占める。  一方、欧米をはじめとする諸外国の大学等が単位認定したインターンシップは、1カ月以上の長期かつ有給が主流で多くの学生が参加するといった違いがある。文科省の「インターンシップの推進等に関する調査研究協力者会議」ではインターンシップ推進の方策として、プログラムの届け出・内容の公表や優良なプログラムの表彰制度づくりなどを提示。大学等と企業の間で調整する専門人材の育成配置と国などによる育成支援、地域におけるインターンシップ推進のための協議会の充実、大学等と企業の双方に対する負担軽減策の実施などを挙げている。

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