「多すぎるんですよね」 ENEOS統一に見える勝者の余裕?
本格統合へ旧JXがじわり主導権
JXTGエネルギーは6日、4種類ある給油所(ガソリンスタンド)のブランドを2019年度中に「ENEOS(エネオス)」に統一すると発表した。ブランドの一本化により消費者の利便性を高めると同時に、経営の効率化につなげる。
同社は、旧JXホールディングスと旧東燃ゼネラル石油の統合で今年4月に誕生したJXTGホールディングスの傘下の事業会社。
全国に計約3300カ所ある旧東燃ゼネラルの3ブランド(「エッソ」、「モービル」、「ゼネラル」)を順次、ENEOSに切り替える。
旧JXの給油所は約1万200カ所あり、ENEOSブランドが全国の給油所の4割超を占めることになる。
JXTGホールディングス(HD)は2018年3月期から3カ年の中期経営計画で、営業利益を18年同期予想の3500億円から20年同期に5000億円に引き上げる。同社はJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が統合して4月に発足した。統合に伴う収益の改善効果を20年3月期に1000億円見込む。
内田幸雄社長は、国内の需要減退など環境が激変する中、「正念場と思い、取り組んでいく」と意欲を示した。製油所の統廃合についてはHD傘下のJXTGエネルギーの杉森務社長が「本年度(18年3月期)のできるだけ早いうちに決めたい。19年度には(統廃合に)着手したい」と述べた。製油所の統廃合は、収益改善の効果に織り込んでいない。
旧JXホールディングス(HD)と旧東燃ゼネラル石油の経営統合で1日に発足した新会社、JXTGホールディングス(HD)が3日に本格始動する。ガソリンの国内販売シェア半数を握る、巨大石油元売りの誕生だ。だが、その先行きには、供給戦略を巡る考え方の違いをどう埋めるかなど多くの課題が待ち受ける。
新会社の会長、社長にはそれぞれ旧JXHD会長の木村康氏と同社長の内田幸雄氏、副社長には旧東燃ゼネラル石油社長の武藤潤氏が就任した。今後の製油所の運営効率化や物流の合理化などにより、2019年度までに年額1000億円の収益改善(製油所統廃合の効果は含まない)を果たし、連結経常利益5000億円以上を目指す。
統合後の最大の焦点は燃料油の内需減少で、供給力をもてあましている製油所の統廃合だ。傘下のJXTGエネルギー社長に就任した杉森務氏(旧JXエネルギー社長)はこの間、「需要に見合う生産体制の構築を急ぐ」と、計11カ所ある製油所の統廃合による固定費削減に意欲を示してきた。
一方、旧東燃ゼネラル側は「固定費削減ありきでなく、海外の需給動向も視野に入れて生産設備のあり方を考えたい」(武藤氏)という。内需の先細りをにらんだ合理化と、輸出拡大に向けた体制整備との折り合いをどうつけるかが問われる。
もともと規模の利益を追求してM&A(合併・買収)を繰り返してきたJXと、製油所の運営効率の高さを競争力の源泉としてきた東燃ゼネラルの事業戦略の違いは大きい。
取引先との関係維持も課題となる。これまで東燃ゼネラルから年間300万キロリットル規模の燃料油を調達してきたキグナス石油(東京都中央区)は、JXTGにのみ込まれることへの警戒感から、仕入れのほぼ全量をコスモエネルギーホールディングス(HD)グループに切り替えた。同様な離反が続くことになれば、製油所の稼働率がさらに低下する。
1月に起きた旧東燃ゼネラル和歌山工場(和歌山県有田市)の火災事故への対応も急がれる中で、目標達成は決して容易ではない。
(文=宇田川智大)
JXホールディングスとの経営統合を、4月1日に控える東燃ゼネラル石油。当面は両社がそれぞれ展開してきた給油所(SS)のブランドを併存させる予定で、東燃ゼネラルの「エッソ」「モービル」「ゼネラル」の3ブランドのSSも、従来通りの営業を続ける。
その店舗運営で同社が今、最も重視する営業施策は、SSは給油するだけの場所という先入観を覆すこと。そして洗車や車検、メンテナンスなどのカーケア全般を「いつものお店でまかせて安心」といった信頼を顧客に寄せてもらうことだ。
SSを取り巻く環境は厳しい。人口減少や若年層の車離れ、環境性能が高いエコカーの普及などで燃料油の需要が減り続け、給油以外のサービスによる収益の拡大が、大きな課題となっている。
東燃ゼネラルは系列のSSに車検や傷・へこみの修理、車体のコーティングなどのカーケアを包括的に請け負うサービス「ドライバーズリンク」の導入を提案しており、実施店は系列SS全3400店のうち、およそ1200店に上る。利用客にしてみれば車のメンテナンス全般を、なじみのSS1カ所にすべて頼める仕組みだ。
だが、カーケア市場の競争も激しい。自動車用品店や自動車販売店が、客の囲い込み、事業多角化を狙ってカーケアに力を入れているほか、低価格が売り物のカーケア専門店も台頭してきた。これらに対抗し、カーケアの拠点としてSSの地位を高める必要がある。
問題はもっぱら給油のため訪れる客を、カーケアのサービスにどう誘導するかだ。この点で同社は、需要開拓の余地が比較的大きい女性客を取り込むためのマーケティングに力点を置いている。
SSのサービスに対する見方には、男女間で相当な違いがあるという。例えば女性はエンジンオイルの性能など商品の仕様を説明しても「あまり心に響かない」(燃料油販売本部マーケティングサービス部の吉田尚士カーケアグループマネージャー)のが実情。この実態を踏まえ、女性の関心が高いサービスを重点的に訴求する。
例えば女性は車内の環境に敏感で、消臭や除菌といったサービスには興味を抱く傾向が強い。そこでエアコンフィルターを長く使い続けると、嫌な臭いの原因になるなどの分かりやすい説明で、定期的なフィルター交換を提案。
車検を利用した客に抽選で、女性が好むスイーツを贈るなどのキャンペーンも展開してきた。こうしたことをきっかけに、メンテナンスを頼める場所としての認識を深めてもらう狙いだ。
このほか人口減少下で客との接点を大切にするため、利用者一人ひとりに特化したワン・ツー・ワンの販売促進策にも取り組む。
電子マネー機能を埋め込んだ専用キーホルダーをSSのデータ読み取り機にかざすと、決済ができる仕組みで顧客の購買履歴を把握し、マーケティングに生かすなどの取り組みを実践中だ。給油を中心に利用頻度を高めてもらい、「まかせて安心」という信頼感とともにSSを、より身近に感じてもらいたい意向だ。
(文=宇田川智大)
同社は、旧JXホールディングスと旧東燃ゼネラル石油の統合で今年4月に誕生したJXTGホールディングスの傘下の事業会社。
全国に計約3300カ所ある旧東燃ゼネラルの3ブランド(「エッソ」、「モービル」、「ゼネラル」)を順次、ENEOSに切り替える。
旧JXの給油所は約1万200カ所あり、ENEOSブランドが全国の給油所の4割超を占めることになる。
日刊工業新聞2017年9月7日
製油所の統廃合は?
JXTGホールディングス(HD)は2018年3月期から3カ年の中期経営計画で、営業利益を18年同期予想の3500億円から20年同期に5000億円に引き上げる。同社はJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が統合して4月に発足した。統合に伴う収益の改善効果を20年3月期に1000億円見込む。
内田幸雄社長は、国内の需要減退など環境が激変する中、「正念場と思い、取り組んでいく」と意欲を示した。製油所の統廃合についてはHD傘下のJXTGエネルギーの杉森務社長が「本年度(18年3月期)のできるだけ早いうちに決めたい。19年度には(統廃合に)着手したい」と述べた。製油所の統廃合は、収益改善の効果に織り込んでいない。
日刊工業新聞2017年5月15日
事業戦略の違い大きく
旧JXホールディングス(HD)と旧東燃ゼネラル石油の経営統合で1日に発足した新会社、JXTGホールディングス(HD)が3日に本格始動する。ガソリンの国内販売シェア半数を握る、巨大石油元売りの誕生だ。だが、その先行きには、供給戦略を巡る考え方の違いをどう埋めるかなど多くの課題が待ち受ける。
新会社の会長、社長にはそれぞれ旧JXHD会長の木村康氏と同社長の内田幸雄氏、副社長には旧東燃ゼネラル石油社長の武藤潤氏が就任した。今後の製油所の運営効率化や物流の合理化などにより、2019年度までに年額1000億円の収益改善(製油所統廃合の効果は含まない)を果たし、連結経常利益5000億円以上を目指す。
統合後の最大の焦点は燃料油の内需減少で、供給力をもてあましている製油所の統廃合だ。傘下のJXTGエネルギー社長に就任した杉森務氏(旧JXエネルギー社長)はこの間、「需要に見合う生産体制の構築を急ぐ」と、計11カ所ある製油所の統廃合による固定費削減に意欲を示してきた。
一方、旧東燃ゼネラル側は「固定費削減ありきでなく、海外の需給動向も視野に入れて生産設備のあり方を考えたい」(武藤氏)という。内需の先細りをにらんだ合理化と、輸出拡大に向けた体制整備との折り合いをどうつけるかが問われる。
もともと規模の利益を追求してM&A(合併・買収)を繰り返してきたJXと、製油所の運営効率の高さを競争力の源泉としてきた東燃ゼネラルの事業戦略の違いは大きい。
取引先との関係維持も課題となる。これまで東燃ゼネラルから年間300万キロリットル規模の燃料油を調達してきたキグナス石油(東京都中央区)は、JXTGにのみ込まれることへの警戒感から、仕入れのほぼ全量をコスモエネルギーホールディングス(HD)グループに切り替えた。同様な離反が続くことになれば、製油所の稼働率がさらに低下する。
1月に起きた旧東燃ゼネラル和歌山工場(和歌山県有田市)の火災事故への対応も急がれる中で、目標達成は決して容易ではない。
(文=宇田川智大)
日刊工業新聞2017年4月3日
どうなる東燃系SS
JXホールディングスとの経営統合を、4月1日に控える東燃ゼネラル石油。当面は両社がそれぞれ展開してきた給油所(SS)のブランドを併存させる予定で、東燃ゼネラルの「エッソ」「モービル」「ゼネラル」の3ブランドのSSも、従来通りの営業を続ける。
その店舗運営で同社が今、最も重視する営業施策は、SSは給油するだけの場所という先入観を覆すこと。そして洗車や車検、メンテナンスなどのカーケア全般を「いつものお店でまかせて安心」といった信頼を顧客に寄せてもらうことだ。
SSを取り巻く環境は厳しい。人口減少や若年層の車離れ、環境性能が高いエコカーの普及などで燃料油の需要が減り続け、給油以外のサービスによる収益の拡大が、大きな課題となっている。
東燃ゼネラルは系列のSSに車検や傷・へこみの修理、車体のコーティングなどのカーケアを包括的に請け負うサービス「ドライバーズリンク」の導入を提案しており、実施店は系列SS全3400店のうち、およそ1200店に上る。利用客にしてみれば車のメンテナンス全般を、なじみのSS1カ所にすべて頼める仕組みだ。
だが、カーケア市場の競争も激しい。自動車用品店や自動車販売店が、客の囲い込み、事業多角化を狙ってカーケアに力を入れているほか、低価格が売り物のカーケア専門店も台頭してきた。これらに対抗し、カーケアの拠点としてSSの地位を高める必要がある。
問題はもっぱら給油のため訪れる客を、カーケアのサービスにどう誘導するかだ。この点で同社は、需要開拓の余地が比較的大きい女性客を取り込むためのマーケティングに力点を置いている。
SSのサービスに対する見方には、男女間で相当な違いがあるという。例えば女性はエンジンオイルの性能など商品の仕様を説明しても「あまり心に響かない」(燃料油販売本部マーケティングサービス部の吉田尚士カーケアグループマネージャー)のが実情。この実態を踏まえ、女性の関心が高いサービスを重点的に訴求する。
例えば女性は車内の環境に敏感で、消臭や除菌といったサービスには興味を抱く傾向が強い。そこでエアコンフィルターを長く使い続けると、嫌な臭いの原因になるなどの分かりやすい説明で、定期的なフィルター交換を提案。
車検を利用した客に抽選で、女性が好むスイーツを贈るなどのキャンペーンも展開してきた。こうしたことをきっかけに、メンテナンスを頼める場所としての認識を深めてもらう狙いだ。
このほか人口減少下で客との接点を大切にするため、利用者一人ひとりに特化したワン・ツー・ワンの販売促進策にも取り組む。
電子マネー機能を埋め込んだ専用キーホルダーをSSのデータ読み取り機にかざすと、決済ができる仕組みで顧客の購買履歴を把握し、マーケティングに生かすなどの取り組みを実践中だ。給油を中心に利用頻度を高めてもらい、「まかせて安心」という信頼感とともにSSを、より身近に感じてもらいたい意向だ。
(文=宇田川智大)
日刊工業新聞2017年3月31日