ヒトとモノの混載、あすから規制緩和。課題も山積み
バス、鉄道など各地で導入進むも…
路線バスや鉄道で旅客と貨物を一緒に運ぶ「貨客混載」の試みが各所で盛んになっている。地域交通や物流事業者の生産性向上に有効とされ、国土交通省は9月1日から過疎地における規制を緩和する。しかし期待されるほど、バス会社の赤字路線維持や物流事業者の人手不足解消への直接的効果が見込みにくいのが実情だ。先行例から課題を検証し、今後の可能性を探った。(小林広幸)
ヤマト運輸と岩手県北自動車(盛岡市)は2015年6月から盛岡市―岩手県宮古市で路線バスを乗り継ぐ貨客混載を開始。約80キロメートルの幹線輸送を担い、座席13席分を減らして専用荷室を設けた改造車両「ヒトものバス」を1往復運行している。
バス会社は貨物分の固定収入を確保。「狙った効果は上げられている」(岩手県北自動車)が、当初予定していた他路線への拡充に進展はない。貨客混載に適した路線がなかなか見つからないのだ。
貨客混載は旅客、貨物のサービスレベルを変えず、双方にメリットがある路線での設定が条件。物流事業者のニーズがない路線や時間、旅客輸送に影響が見込まれる場合は実現できない。「ヒトものバス」は朝夕の多客時を避けて運行するが、宮古発の帰り便はヤマト運輸の需要と合わず荷室は空(から)だ。
盛岡―宮古間の急行バスは県都に乗り入れる都市間バスで便数も多い。並行するJR山田線が東日本大震災で不通のため代行の役目も担う。他のバスより定員が少ない「ヒトものバス」では想定外の客の積み残しが何度も発生している。
貨客混載はいったん運用を始めると、バス会社の都合だけでやめるのは難しい。便数の多い路線に専用バスを導入するのも、車両運用が硬直化するリスクをはらむ。物流事業者もバスの輸送力を上回る貨物量がある時には、トラックを別に用意する必要が発生する。
バスによる貨客混載は十数キロ―数十キロメートルとある程度の距離がないと物流事業者の効果が生まれにくい。乗客数が少なく、変動も見込みにくい路線が使いやすい。座席や既存荷室の利用による少量輸送が現実的のようだ。
佐川急便と北越急行(新潟県南魚沼市)は4月、六日町駅(同)―うらがわら駅(新潟県上越市)間約47キロメートルで鉄道による貨客混載を始めた。両市間で集配する荷物は、山間部を迂回(うかい)してトラックで運んでいたが、一部を両市を直接つなぐ鉄道に転換した。
利用客の少ない平日夜に貨客混載列車を1日1往復設定。北越急行は北陸新幹線開通により、同線を通過していた北陸方面への特急列車が廃止され、収入が激減した。旅客数人相当の定期収入増は決して小さくない。
両端の営業所から中継駅まではトラックで輸送。運転手は貨客混載専用の台車2台を、トラックから降ろして駅構内を搬送し、列車の数分の停車時間の間に積み込む。荷降ろし時は逆の行程を踏む。
鉄道利用で壁となるのは駅施設の問題だ。トラックがホームに横付けできる環境が整えば作業性は高まる。東京メトロと宅配大手が16年に行った地下鉄による貨客混載の実証実験でも、積載の作業性が課題に挙がった。
また行き先を柔軟にできるバスと異なり、両端の駅から営業所の間のトラック輸送も必要となる。少量貨物では速達性を考慮しない限り、十分な生産性向上の効果が得にくい。
だが駅施設の環境が整えば、輸送密度の低い第三セクター鉄道などでのトラック代替輸送は可能性がある。旅客車両を活用したモーダルシフトを考えてみる余地はありそうだ。
<ヤマト、佐川、日本郵便の戦略は?(日刊工業新聞電子版に登録いただくとお読みになれます)>
路線バスに専用荷室
ヤマト運輸と岩手県北自動車(盛岡市)は2015年6月から盛岡市―岩手県宮古市で路線バスを乗り継ぐ貨客混載を開始。約80キロメートルの幹線輸送を担い、座席13席分を減らして専用荷室を設けた改造車両「ヒトものバス」を1往復運行している。
バス会社は貨物分の固定収入を確保。「狙った効果は上げられている」(岩手県北自動車)が、当初予定していた他路線への拡充に進展はない。貨客混載に適した路線がなかなか見つからないのだ。
貨客混載は旅客、貨物のサービスレベルを変えず、双方にメリットがある路線での設定が条件。物流事業者のニーズがない路線や時間、旅客輸送に影響が見込まれる場合は実現できない。「ヒトものバス」は朝夕の多客時を避けて運行するが、宮古発の帰り便はヤマト運輸の需要と合わず荷室は空(から)だ。
盛岡―宮古間の急行バスは県都に乗り入れる都市間バスで便数も多い。並行するJR山田線が東日本大震災で不通のため代行の役目も担う。他のバスより定員が少ない「ヒトものバス」では想定外の客の積み残しが何度も発生している。
貨客混載はいったん運用を始めると、バス会社の都合だけでやめるのは難しい。便数の多い路線に専用バスを導入するのも、車両運用が硬直化するリスクをはらむ。物流事業者もバスの輸送力を上回る貨物量がある時には、トラックを別に用意する必要が発生する。
バスによる貨客混載は十数キロ―数十キロメートルとある程度の距離がないと物流事業者の効果が生まれにくい。乗客数が少なく、変動も見込みにくい路線が使いやすい。座席や既存荷室の利用による少量輸送が現実的のようだ。
三セク鉄道定期収入増
佐川急便と北越急行(新潟県南魚沼市)は4月、六日町駅(同)―うらがわら駅(新潟県上越市)間約47キロメートルで鉄道による貨客混載を始めた。両市間で集配する荷物は、山間部を迂回(うかい)してトラックで運んでいたが、一部を両市を直接つなぐ鉄道に転換した。
利用客の少ない平日夜に貨客混載列車を1日1往復設定。北越急行は北陸新幹線開通により、同線を通過していた北陸方面への特急列車が廃止され、収入が激減した。旅客数人相当の定期収入増は決して小さくない。
両端の営業所から中継駅まではトラックで輸送。運転手は貨客混載専用の台車2台を、トラックから降ろして駅構内を搬送し、列車の数分の停車時間の間に積み込む。荷降ろし時は逆の行程を踏む。
鉄道利用で壁となるのは駅施設の問題だ。トラックがホームに横付けできる環境が整えば作業性は高まる。東京メトロと宅配大手が16年に行った地下鉄による貨客混載の実証実験でも、積載の作業性が課題に挙がった。
また行き先を柔軟にできるバスと異なり、両端の駅から営業所の間のトラック輸送も必要となる。少量貨物では速達性を考慮しない限り、十分な生産性向上の効果が得にくい。
だが駅施設の環境が整えば、輸送密度の低い第三セクター鉄道などでのトラック代替輸送は可能性がある。旅客車両を活用したモーダルシフトを考えてみる余地はありそうだ。
<ヤマト、佐川、日本郵便の戦略は?(日刊工業新聞電子版に登録いただくとお読みになれます)>
日刊工業新聞2017年8月31日