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27年ぶりヤマト値上げ。佐川との違いは何だったのか

27年ぶりヤマト値上げ。佐川との違いは何だったのか

個数の拡大で従業員への負担が増している

 ヤマト運輸が「宅急便」の個人向け基本運賃を、9月末までに引き上げる方針を明らかにした。基本運賃の引き上げは、消費増税を除くと27年ぶり。インターネット通信販売大手など大口顧客の運賃についても、値上げ交渉を継続する方針。ネット通販の需要拡大などを背景に、物流インフラとして宅配便の個数が急激に拡大する中、抜本的な運賃の見直しに踏み切る。従業員への負担が増し、サービス残業が常態化するなど悪循環に陥っており、人件費をはじめとしたコストを回収できる適正な運賃体系に改める。

 ヤマト運輸が改定する宅急便の基本運賃は、個人向けが対象。現行、東京から大阪に3辺の長さの合計が60センチメートルの荷物を送る際の消費税込みの運賃は864円。ヤマトは9月末までに値上げを実施する方針で、値上げ幅は今後検討する。

 ただ、個人向けの宅急便は、ヤマトの取り扱う荷物の1割程度。9割はアマゾンジャパン(東京都目黒区)などをはじめとしたネット通販など、BツーB(企業間)の大口顧客になる。大口顧客に対しては、これまでも値上げを要請してきたが、全体の荷物の個数が増えると、値引きなどにも対応しており、平均単価がなかなか上がらない状態が続いていた。大口顧客に対しては、個数に応じた値引きも含めた、抜本的な運賃体系の見直しを要請する。

 宅急便の急激な拡大のしわ寄せは、ドライバーをはじめとした従業員に及んでおり、サービス残業が常態化するなど、現場からは悲鳴に近い声が上がる。

 現在、春闘の労使交渉で宅急便の総量規制などにも踏み込んで議論しているが、労働環境の整備には、適正な運賃設定が前提となる。

 ヤマトは現場の大きな負担となっている再配達についても、有料化を検討する。ただ、荷物を受け取る利用者が払うのか、送る側の事業者が払うのか、仕組み作りも含め、課題が多く、実現には時間がかかりそうだ。

 従来、物流業界では首位のヤマトと2位の佐川急便を中心に、宅配便の荷物獲得競争を繰り広げてきた。ヤマトは顧客獲得のため配送の高速化など、物流施設に大規模な投資をしながらサービス拡充を続けてきた。

 だが、ここに来て、ネット通販が想定以上の早さで浸透。ヤマトの宅急便の個数は、2006年3月期の11億2899万個から、17年3月期は18億7000万個に達する見通しで、10年で6割以上拡大している。その一方、宅急便の単価は15年度の578円から、16年度は556円に下がる見通しだ。

 佐川は最大顧客であるアマゾンの配送から数年前に撤退。競争の中でサービス拡充一辺倒となってきたヤマトも、その方向性を転換する時期に来ていると言えそうだ。
(文=高屋優理)
日刊工業新聞2017年3月8日
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
熾烈な競争の中で、荷物を獲得してきたヤマトですが、それが今、首を絞めています。ネット通販が人々のライフスタイルに根付き、今後、宅配便の荷物が減ることはないと思います。社会のインフラとも言える、物流のネットワークをどう維持するかは、一企業だけの問題では片付けられない、社会全体の課題といえるかもしれません。

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