「工学部改革」は学科の縦割り見直しへの先べんとなるか
文部科学省は2018年度から大学の工学教育改革を後押しする新事業を始める。学士・修士の6年一貫教育や、学科・専攻の定員設定の柔軟化など、文科省の制度改正と連動し、学生重視の複数の取り組みからなる改革プランを助成する。産業動向と工学教育にギャップがある現状を解消するのが狙い。工学修士進学率の高い研究型大学のほか、実務的な教育手法を導入する中堅私立大学など広く対象とする。
18年度予算の概算要求で12億円を盛り込む。初年度は工学系学部を置く約160校の1割に当たる15校程度を対象とする。大学にプログラム開発費や専任スタッフの人件費を支援する。
新事業の柱は文科省が秋以降に委員会を設置し、制度化の議論を始める6年一貫制を実現する取り組み。進学する場合も学部教育を4年間と定め、各大学の学則で卒業研究・論文の在り方を必修としている現状を見直す。
教育年限が6年になれば、時間に余裕ができる。代わりに学習課題を設定してグループでプロジェクトを完成させるプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)や留学、長期インターンシップ(就業体験)など実践的な教育手法を導入しやすくなる。卒論に代わる達成度評価の導入が想定される。
大学運営面では、学科縦割り構造の見直しも改革プランとして挙げられる。通常は学部各学科、大学院研究科各専攻に学生定員と教員数が決まっている。これを変更し、社会ニーズに対応し新分野の教育や研究を開拓できるようにする。
工学教育は分野ごとの専門性が高く、学部・学科を横断したカリキュラムを編成する大学は少なかった。これまで独自の工学教育改革をリードしているのは東京工業大学、名古屋工業大学、京都工芸繊維大学、金沢工業大学などに限られている。文科省はこの流れを新事業で広げていく。
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変化に柔軟に対応し、新時代を創り出す人材育成に向け、工学系教育の抜本的な改革が動きだす。人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)、IoT(モノのインターネット)の進展など、産業社会が変化する今こそチャンスである。
文部科学省の有識者会議は「大学における工学系教育の在り方について」の中間まとめを公表した。目玉として「学科縦割り構造の見直し」「学士・修士の6年一貫制」「工学共通基礎としての情報科学教育」などを挙げる。制度改正は2017年度中にも着手する。
日本の工学教育は明治以来、各学科のカリキュラムに沿って一つの分野を深く学ぶことが良しとされていた。機械や電気、化学といった学科間の連携はほとんどなく、専門性を深めることが学術界でも産業界でも重視された。
しかし今はダイナミックに変化する時代になった。例えば自動車は、電動化や自動運転化に伴い、求められる専門知識は機械工学から電気工学へ、電気から情報へと変わりつつある。ところが“たこつぼ型”といわれる今の体系では、他分野が分からず、変化に対応できない。
産業界には「将来の技術動向がどうなるかは分からない。幅広い工学基礎を学ぶことで、変化に柔軟に対応できる能力を身につけてほしい」という声が強い。これを受け、6年一貫教育を前提に、学部高学年まで知的財産や起業教育を含む工学基礎教育を徹底し、その上で専門分野を学ぶ体系を促している。
中でも注目されるのは情報科学教育の強化だ。今後は機械、化学、材料、建築など専門分野に立脚しながら、ITを活用できる人材が必要だ。基礎教育の共通カリキュラムとしてIT教育を必修化する制度設計を提言している。
工学系学部の入学者数は、24年前と比べて5%程度減少したものの、2014年度で9万人強もいる。文科省は社会変化に対応できる人材育成コンセプトを、他学部にも展開させる狙いを持つ。先陣を切る工学教育での成功モデルに期待したい。
18年度予算の概算要求で12億円を盛り込む。初年度は工学系学部を置く約160校の1割に当たる15校程度を対象とする。大学にプログラム開発費や専任スタッフの人件費を支援する。
新事業の柱は文科省が秋以降に委員会を設置し、制度化の議論を始める6年一貫制を実現する取り組み。進学する場合も学部教育を4年間と定め、各大学の学則で卒業研究・論文の在り方を必修としている現状を見直す。
教育年限が6年になれば、時間に余裕ができる。代わりに学習課題を設定してグループでプロジェクトを完成させるプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)や留学、長期インターンシップ(就業体験)など実践的な教育手法を導入しやすくなる。卒論に代わる達成度評価の導入が想定される。
大学運営面では、学科縦割り構造の見直しも改革プランとして挙げられる。通常は学部各学科、大学院研究科各専攻に学生定員と教員数が決まっている。これを変更し、社会ニーズに対応し新分野の教育や研究を開拓できるようにする。
工学教育は分野ごとの専門性が高く、学部・学科を横断したカリキュラムを編成する大学は少なかった。これまで独自の工学教育改革をリードしているのは東京工業大学、名古屋工業大学、京都工芸繊維大学、金沢工業大学などに限られている。文科省はこの流れを新事業で広げていく。
日刊工業新聞2017年8月28日
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変化に柔軟に対応し、新時代を創り出す人材育成に向け、工学系教育の抜本的な改革が動きだす。人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)、IoT(モノのインターネット)の進展など、産業社会が変化する今こそチャンスである。
文部科学省の有識者会議は「大学における工学系教育の在り方について」の中間まとめを公表した。目玉として「学科縦割り構造の見直し」「学士・修士の6年一貫制」「工学共通基礎としての情報科学教育」などを挙げる。制度改正は2017年度中にも着手する。
日本の工学教育は明治以来、各学科のカリキュラムに沿って一つの分野を深く学ぶことが良しとされていた。機械や電気、化学といった学科間の連携はほとんどなく、専門性を深めることが学術界でも産業界でも重視された。
しかし今はダイナミックに変化する時代になった。例えば自動車は、電動化や自動運転化に伴い、求められる専門知識は機械工学から電気工学へ、電気から情報へと変わりつつある。ところが“たこつぼ型”といわれる今の体系では、他分野が分からず、変化に対応できない。
産業界には「将来の技術動向がどうなるかは分からない。幅広い工学基礎を学ぶことで、変化に柔軟に対応できる能力を身につけてほしい」という声が強い。これを受け、6年一貫教育を前提に、学部高学年まで知的財産や起業教育を含む工学基礎教育を徹底し、その上で専門分野を学ぶ体系を促している。
中でも注目されるのは情報科学教育の強化だ。今後は機械、化学、材料、建築など専門分野に立脚しながら、ITを活用できる人材が必要だ。基礎教育の共通カリキュラムとしてIT教育を必修化する制度設計を提言している。
工学系学部の入学者数は、24年前と比べて5%程度減少したものの、2014年度で9万人強もいる。文科省は社会変化に対応できる人材育成コンセプトを、他学部にも展開させる狙いを持つ。先陣を切る工学教育での成功モデルに期待したい。
日刊工業新聞2017年8月17日