シェアリングで進む「ガバナンス」の革新が面白い!

by Gordon Johnson from Pixabay

シェアリングビジネスが新しいガバナンスを作る場として注目されている。シェアリングは個人と個人の取引を大量に、少数の管理者で仲介するビジネスだ。参加者への教育訓練や仲介のデジタル化を駆使して取引の信頼性を高め、プラットフォームを健全に保つ。このビジネスモデルや競争原理が急速に変化すると、法律や規制は追い付けない。国や政府がルールを設計するよりも、民間や個人とガバナンスを回していく仕組みが模索されている。(取材・小寺貴之) シェアリングではスキルや時間のシェアが注目された。空いた時間で料理を宅配したり、ロゴをデザインしたりと気軽に仕事を請け負える。中でも家事スキルのシェアリングは家事支援サービス市場に低価格を武器に参入した。家事支援人材は東京都や大阪府などを国家戦略特区として外国人労働者を受け入れるほどのニーズがあった。 ただ家事代行は顧客からクレームを受けるリスクもある。働き手は自身のスキルを示し、身を守るためにも検定や資格制度を利用する。この資格を与える協会が多数あり、家事代行事業者も実質的に運営している。例えばベアーズ(東京都中央区)は全国家事代行サービス協会(同)で事業者向けの認証制度を立ち上げ、「家事大学」と銘打って講座を販売する。 事業者は働き手から講習代や検定料、消費者からサービス料を集めてエコシステムを支える。働き手としては良い案件を紹介してもらうには、競合が運営する検定資格よりも、登録先の事業者に近しい協会の資格を選ぶ方が安心だ。働き手を囲い込む仕組みとしても機能している。 全国家事代行サービス協会の認証制度は、家事代行事業者のサービスが、依頼者の家事のレベルと同等以上であることを保証する。シェアリング事業者は認証対象外だった。 家事スキルシェアのタスカジ(東京都港区)は独自に「家事クリエイター」という資格を立ち上げた。同社は依頼者と個人事業主としての働き手を仲介するビジネスモデルだ。新資格では料理や掃除などのスキルに加え、コミュニケーションスキルに重きをおいた。 従来の家政婦と家事支援サービス、シェアリングが混沌とした労働市場を形成した。働き手はスキルを磨き、資格で証明する。ただ資格商法のような検定制度も混在し、必ずしも別の事業者に評価される保証はない。家事代行の価格や時間帯は仲介者が実質的に差配し、個人も価格競争にさらされる。賃金は労働需給の均衡に達する前に新しいビジネスモデルや仲介プラットフォームが登場する。 森・濱田松本法律事務所(東京都千代田区)から経済産業省に出向する羽深宏樹弁護士は「変化の速い業界を規制で律するのは限界がある」と説明する。法規制が社会の変化に追いつけない。そこで経産省は東京大学の柳川範之教授を座長に新しいガバナンスモデルを検討してきた。ルールベースの法規制からゴールベースの法規制への転換を提言する。 法は最終的に保護されるべき目的やゴールを策定する役割を担い、その達成は民間主体の自主的な取り組みに委ねる。例えばプラットフォーマーが作るマッチングアルゴリズムやレコメンドランキングは、法律や規制で制御できるか課題だ。法律とプログラムをつなぐ役割は企業が担わざるを得ない。 企業はルールの設計者や施行者としての役割が増す。企業自らリスクをコントロールしているか対外的に説明して信頼を獲得する。政府はゴールの策定やステークホルダーをまとめるファシリテーターとしての役割を担う。個人やコミュニティーは積極的に自身の価値観や仕組みへのレビューを発信し、多様な意見をガバナンスに反映させる。政府と企業、個人が参加し、ガバナンスのフィードバックループを回す。 プラットフォーマーと政府のガバナンスは欧米でも課題であり、評価は高い。羽深弁護士は「経済協力開発機構(OECD)では『ここまで体系化されたリポートは他に類をみない』と評価された」と振り返る。 こうした民間が主体的にガバナンスに取り組む姿勢はシェアリング業界が先鞭を付けてきた。内閣官房がまとめたガイドラインを、シェアリングエコノミー協会(東京都千代田区)が認証制度として運用し、業界の信頼性を向上させる。スキルシェアだけでなく、モノやスペースのシェアも認証されている。 一方で認証を取ればトラブルがなくなるわけではない。 また日本のシェアリングは各業界で中小規模の事業者が乱立した状態だ。コンプライアンスやユーザーサポートに割ける経営資源は限られる。そこでシェアリング全体を支える仕組みとして信用スコアやオンライン紛争解決(ODR)、シェア向け保険が注目された。 信用スコアは取引実績などから個人の信頼性を点数化する仕組みだ。業界横断的に信用スコアを運用できると精度が上がる。ただシェアエコ協会の石原遥平弁護士(スペースマーケット所属)は「信用スコアは社会に受け入れられるか課題が多い」と指摘する。支払い能力に限った信用スコアであっても反発は大きかった。事業者としては、個人の仕事スキルやモラル、コミュニケーション能力を含めた信用を計りたいが反発が想定される。 ODRは裁判とは別の手段で紛争を解決するオンライン手続きを指す。オンライン化で紛争解決のコストを下げ、シェアリングでトラブルになる低額の紛争に対応する。 ODRは内閣官房でITや人工知能(AI)の活用について検討が進む。ただ相談や交渉のAI化は将来のテーマとし、チャットボット(自動応答ソフト)や会員制交流サイト(SNS)の活用を検討している。川村尚永参事官は「参加者からは、寄せられる相談は複雑骨折のような状態で定型対応で解決できる案件が少ないと説明される」とODRが進まない背景を明かす。 自動応答で相談間口を広げても、解決に向けて調停人らの人が携わるため、現場がパンクする心配もある。チャットボット相談などでリテラシーが広がり、紛争を予防する効果は期待されるが、紛争解決のコストを急に下げることは難しい。 救いになるのは保険だ。シェアエコ協会の石原弁護士は「大手保険がシェアリングを成長市場とし、大きく投資している」と説明する。個人間取引への保険は設計が難しかったが、プラットフォーマーが数を集めて保険料を抑える。スペースマーケットでは損保ジャパン日本興亜保険サービス(東京都新宿区)から、免責額なしで上限1億円の賠償責任保険を提供している。 こうした問題はシェアリング特有でなく、人間社会の抱える問題だ。古くて新しい課題が顕在化し、ガバナンスや紛争解決など、時代変化への対応が進むと期待される。 「日本」「家事」「ハウスクリーニング」「整理」「収納」「清掃」「掃除」「検定」「資格」。これらのキーワードで検索すると、たくさんの「協会」があることがわかります。必ずしも業界団体ではなく、家事代行事業者の経営者や有名人が設立して検定や資格を売っています。業界の代表性を担保するために役員の選出プロセスや交代歴が公表されている協会はなかなか見つかりにくいです。業界の成長や健全化というよりも、検索エンジンに最適化されている協会・業界なのではないかと感じてしまいます。 家事代行は子育てが一段落した女性の社会復帰など、気軽に始められる仕事と謳われますが、そうした新しい働き手を消費するような構造は望ましくありません。家事はクリエイティブな仕事、キャリア形成を謳うなら、その協会は新しく資格をつくって教材を売るよりも、乱立した資格や検定制度間の整合をとる方が先なのではないかと思います。週二回・2-3時間の労働で、たまった家事をなんとかすることができるとしたら、気軽に始める家事手伝いというよりも、アスリートのような働き方になると思います。 検定や資格が役に立つのか、登録先の事業者は理不尽なクレームから守ってくれるのか、働き手には高いモラルとリテラシーが求められます。一方で、リテラシーを備えてレビューし、価値観を発信する働き手を事業者が好むのか。新しいガバナンスフレームワークは、どのフィードバック矢印が機能して、どこは機能していないのか、フィードバックの太さ細さをモニタリングできないと、その歪みを追えないと思います。 紛争解決は基本的に採算がとれません。正義と正義が衝突し、お互いに正しいと思っていることを通そうとしていて、そのプロセスにお金を払うことに納得しません。調停する側は、双方の主張を聞いてファクトを集めて、齟齬がどこにあるのか、和解を探ります。弁護士を立てて裁判で争うには100万円以上の案件でないと採算が合わないとされます。 またレビューやレコメンドアルゴリズムはフェイクに弱いです。お金になるなら、働き手も評価者もレビューに介入します。ファクトチェックは大きなコストがかかります。何より、サービスは形や数字が残らないものが多いです。巨大プラットフォーマーの寡占や支配は社会問題として認知されましたが、たくさんの小さな仲介者が競争して起きる歪みも無視できないように思います。言い換えると、ガバナンスのDXを起こすならスキルシェアは非常に面白いテーマになります。

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