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エネルギー大手、国際社会の「石炭火力」批判にどう応えていくか

エネルギー大手、国際社会の「石炭火力」批判にどう応えていくか

出光興産は海外で太陽光発電事業を積極展開する(ベトナムで稼働したメガソーラー)

エネルギーは地球環境問題にとって大きなウエートを占める。持続可能な社会のために、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーの普及拡大が不可欠だ。コストや送電線網への系統接続など普及への課題はあるが、主力電源として電源構成の中での比率が高まることへの期待は大きい。エネルギー大手はこぞって再生エネの開発に乗り出している。(取材・戸村智幸)

■原発再稼働、合意難航/石炭火力、逆風強まる

国内のエネルギー事情を見渡すと、原子力発電は再稼働に必要な地元自治体との合意取得が難しいこともあり、なかなか進展していない。日本の2018年度の発電量割合(日本エネルギー経済研究所推計)のうち、原子力は5・8%にとどまる。さらに、関西電力役員の高浜原発をめぐる金品受領問題が起き、再稼働への障壁が高くなった。

石炭火力発電は18年度の発電量割合(同)は25・5%で、液化天然ガス(LNG)の35・3%に次ぐ電源となっている。原発の再稼働が進まない中で、コストが安い石炭火力発電は主力電源となっている。ただ、石炭火力発電は二酸化炭素(CO2)の排出が多いため、国際社会から批判されている。石炭火力発電を現在の規模で続けていけるかは不透明だ。

■太陽光・風力の構成比率向上へ

再生エネはまだ主力電源にはなっていないが、一定の比率はある。18年度の発電量割合(同)は太陽光5・5%、風力0・7%。水力、バイオマス、地熱を合わせた再生エネ全体では17・0%だ。政府は18年に閣議決定した第5次エネルギー基本計画で、30年度の導入比率を22―24%にする目標を掲げている。

太陽光が普及したのは、政府による政策の後押しが大きい。09年の前身の制度を経て、12年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)だ。家庭や事業者が太陽光発電の余剰電力を10年間、一定の価格で電力会社に販売できる制度だ。

一定価格を保証する分、国民には賦課金として税負担がかかっている。19年度の買い取り費用総額は3・6兆円で、賦課金は2・4兆円になる見込みだ。FITの産業用買い取り価格は、前身制度の09年度当初は1キロワット時当たり48円と高額だったが、政府は買い取り単価を年々下げ、19年度は同14円となった。

太陽光の18年末時点の発電設備容量は、FIT認定済みの未稼働分を合わせると7800万キロワットに達している。エネルギー基本計画の30年想定値の6400万キロワットを上回っている。風力も未稼働分を合わせると、30年想定値におおむね達している。エネ研は、風力やバイオマスの稼働が進むと、20年代半ばにもエネルギー基本計画の22%に到達する可能性があると見込む。

FITの恩恵で普及してきた太陽光だが、国民が賦課金を負担してきた状況を改めるため、政府は年内にFITの関連法を抜本的に見直す。市場での直接販売を基本とし、一定価格を上乗せするFIP(フィード・イン・プレミアム)を導入し、国民負担を抑える狙いだ。

送電線網への系統接続は、太陽光発電事業者の発電量が増えすぎることで、需要と供給のバランスが崩れる問題だ。電力会社はバランスを維持するため、自社の火力発電所を第一に、その後に太陽光事業者の発電量を抑制する出力制御を実施する事態が起きている。

管内に太陽光事業者が多い九州電力は、18年10月に全国で初めて、離島以外での出力制御を実施した。それ以降、春と秋は頻発している。電力需要が夏と冬より小さいためだ。現在は九電しか実施していないが、東京、中部、関西の3社以外の各電力が実施の可能性を表明した。

■化石燃料と2本柱、電源を多様化 安定供給維持へ出力制御対策

出力制御を想定した対策も始まった。東京電力パワーグリッド(PG)は千葉県内で太陽光発電の計画が増えていることを受け、千葉と東京を結ぶ連系線内で、事業者に出力制御の実施の可能性を了承させた上で、系統への接続を受け入れる取り組みを19年に始めた。

系統を増強すると最大1300億円の設備投資が必要で、工事に最長13年間かかる。そこで年間の混雑状況を試算し、年間500万キロワットの再生エネ発電を受け入れる場合、空き容量を活用すれば出力制御が必要になる時間は1%以内だと確認した。

事業者には、その時間は出力制御を実施する前提で、系統への接続を申し込んでもらう。東電PGは茨城県など他のエリアにも同様の対策を導入する方針。岡本浩副社長は「有効な手段と考えている」と自信を示す。

国内のエネルギー大手は、再生エネへの取り組みを本格化させてきた。LNGや原油を海外から調達するという事業構造は、脱炭素の流れの中で、批判されやすい。再生エネを新たな自社電源に育て、化石燃料との2本柱にすることで、批判を抑えつつ、電源調達を多様化する狙いだ。

■海外参画で知見習得

各社は海外の再生エネ開発に参画している。世界のエネルギー大手や投資会社の案件に加わり、開発の知見を得ようとしている。

東京電力フュエル&パワー(FP)と中部電力が共同出資するJERAは、台湾の洋上風力発電事業に参画する。運転開始時期が異なる三つの発電所のうち、二つは既に出資。発電容量約200万キロワットと大規模な三つ目にも出資する予定だ。

小野田聡社長は「再生可能エネルギーをコア事業に育てる」と意気込みを示した上で、「開発、建設、運転の各段階のノウハウを蓄積できる」と三つに参画する意義を説く。一つ目の発電所は運転を始めた。

JERAは台湾の洋上風力発電事業に参画する(フォルモサ1ウィンドパワー社提供)

JERAは年間約3500万トンのLNGを調達しており、その量は世界最大。再生エネは発電容量(持ち分出力)が現在110万キロワットで、25年度に500万キロワットに伸ばす目標だ。

東京ガスは仏エネルギー大手エンジーと組み、メキシコで風力と太陽光発電事業に乗り出す。風力2カ所、太陽光4カ所の発電所を順次立ち上げ、11月までに全て稼働予定だ。東ガスが海外で再生エネ事業に取り組むのは初。

東ガスは30年に再生エネ電源で500万キロワットと現状の10倍を目指しており、海外で6―7割を見込む。内田高史社長は「エンジーとの協業が海外で伸ばす基盤になる」と説く。

出光興産は米国に続き、東南アジアで大規模太陽光発電所(メガソーラー)に取り組んでいる。ベトナム南部に最大出力4万9500キロワットのメガソーラーが稼働を始めた。東南アジアでの電力事業は初で、ベトナムでは最大級のメガソーラーだ。

再生エネが主力電源として存在感を高めるためには、乗り越えるべきハードルはいくつもある。だが、そのための取り組みは政策、企業活動ともに進んでおり、普及への流れは加速する。

日刊工業新聞2020年1月1日

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