想像以上に海外進出が進む韓国コスメ、米国と日本の違い

連載・韓国コスメの底力 #3

韓国の大型化粧品店

韓国では1997年の通貨危機を境に、IT産業およびアイドルやテレビドラマ・映画などのコンテンツ産業を強化してきた。そのコンテンツ産業とともに成長し、世界に広がっていったのが化粧品だ。その強みはどこにあるのか。(取材・昆梓紗) 韓国では2012年ごろから化粧品関連工場が急激に増加。現在では2500ほどが稼働し国内のみならず世界中からのOEMを請け負っている。  韓国の化粧品工場はユニークな発想の新製品開発が活発だ。BBクリーム(※1)やクッションファンデーション(※2)など、世界的トレンドとなってきたものも多い。世界の化粧品市場や動向を調査・取材する「BeautyTech.jp」編集長の矢野貴久子氏は、「韓国で新しい発想のコスメが生まれる背景には、『スキンケアアイテムは先行している欧米や日本メーカーに敵わないので発想で勝負しよう』という機運があるため」と話す。 その「新たな発想」をオープンイノベーションの形で同業他社の間で横展開している点も特徴的だという。例えばクッションファンデーションは2010年に「アイオペ」という韓国コスメブランドが初めて発売した。アイオペはアジアで第三位の規模であるアモーレパシフィックがプロデュースしている。「アモーレパシフィックほど大きな企業であれば特許にして囲い込んでしまってもよいと思いますが、技術をオープンにしています」(矢野氏)。 韓国はOEMメーカーの横のつながりが強く、クッションファンデーションの評判の良さが伝わり技術革新が進み、一気に広まった。現在では世界中の主なメーカーで発売されているが、韓国OEMに製造を発注しているメーカーも多く、技術をオープンにしたことで結果的に韓国のコスメ業界が潤うという状況になっている。また他国メーカーがクッションファンデーションを発売し良さを謳うことで、結果的に韓国コスメへの興味喚起や地位確立につながる。 韓国の化粧品産業について、韓国の化粧品関連OEMと日本・米国の化粧品メーカーのマッチング事業を行う 「Cosmepolitan Pte. Ltd.()」CEO & Founderの尹美晶(Yoon Mijoung)氏は「例えばクッションファンデは外箱、外容器、内容器、パフ、印刷、充填などがそれぞれ別会社で行われており、1つの商品で5社以上が関わっていることもあります。それぞれが強みを生かし、次々に新しい商品を出すことでスピード感のある製品開発~販売を実現しています」と解説する。 そして韓国コスメの重要なキーワードとなっているのが「体験」だ。まず、商品そのものの価値として、今までにないようなユニークなコスメが多い。唇を染めることで色落ちを防げる「ティントリップ」などの例がある。 低価格商品のシートマスクも、従来の「スペシャルなもの」というイメージを覆し、毎日のスキンケアに取り入れるものとして浸透させた。動物やキャラクターの顔がプリントされたマスクも登場し、楽しみながらスキンケアすることができる。メイクアップ商品のパッケージも使いやすさ優先というより、ぱっと目に留まるようなデザインが多い。 購買時も「購入したいから店舗に行くのではなく、『楽しい体験ができる』イメージが定着しています」(尹氏)。SNS映えするディスプレイや、その場で化粧品をカスタマイズするようなイベントなども行われている。 さらに最近話題となっているのが、地域性やストーリーなどの背景を売りにするブランドだ。2018年に立ち上がった「owndo」は韓国の山間部で育つ植物原料をもとにスキンケア商品を作っている。原料を使うだけでなく、その地域へツアーを企画しセミナーを行うなど体験型のPRも行う。「コスメだけでなくライフスタイルを提案するブランドも増えており、消費者側もストーリーや体験を選ぶ、という動きが大きくなりつつあります」(尹氏)。 協力的なOEMが多いという恵まれた環境もあり、化粧品スタートアップが乱立する韓国。スピード感を持って開発から製品化までを行うことや、決済機能のあるECサイトを簡単に立ち上げられる点も寄与している。「ビデオコマースも主流になっており、コスメPRを請け負っていたマーケティング企業がそのノウハウを活かし、逆にコスメブランドを立ち上げた例もあります」(尹氏)。韓国でユニコーン企業とされる6社のうち1社が化粧品メーカー「L&P Cosmetic」だということも、韓国コスメ業界の勢いを物語っている。 しかし狭い国内需要だけではすぐに限界に達することが明白なため、立ち上げ当初から海外を視野に事業を展開している。韓国では国策として、化粧品の輸出を強化。2014年頃に化粧品関連の輸出が輸入を上回った。(※3) 2017年頃にTHAADミサイル問題が起きるまでは中国が大きな市場となっていたが、その後大きくパイを減らすことになった。それまで中国を主軸に活動していた企業も多く、新たな市場を求めてヨーロッパやアメリカへ積極的に展開するようになっていった。欧米では『クリーンビューティー』や『ヴィーガンコスメ』などが流行しており、韓国企業もそれに対応する商品を投入している。価格の安さもそれらを取り入れやすくする重要な要素になっている。  シリコンバレーとアジアに拠点を置くアクセラレーター「igniteXL()」Co-Founderのクレア・チャン(Claire Chang)氏は「アメリカではもともとメイクアップへの意識は高かったのですが、スキンケアはごくシンプルでした。そこに韓国コスメが登場し、『クレンジング、洗顔、化粧水、乳液、美容液、クリーム』のようなしっかりとステップを踏んだケアを普及させ、消費者をいわば“教育”していきました。20年前には場所すらあまり知られていない韓国でしたが、アイドルなどの文化とともに知名度は上昇し、いまや『ブランド』として確立しつつあります」と話す。 また在米韓国人が現地でブランドを立ち上げ、韓国コスメの技術を取り入れながらローカライズした商品を展開する例も多い。これは日本をテーマにしたコスメでも似たような事例がある。アメリカで「日本の化粧品」といえばすぐに名前が挙がるが、日本ではほとんど知られていない「Tatcha」。在米台湾人のヴィクトリア・ツァイ氏が京都を訪れた際に購入した化粧品で肌の状態が改善したことに感動し、日本の技術や成分を取り入れながらアメリカになじむような商品に落とし込んだ。パッケージも日本の芸者を意識させるようなデザインになっている。 世界展開に積極的な一方で、日本は「特殊かつ難しい市場」だと尹氏は話す。現在日本で多くの店舗を展開しているブランド『エチュードハウス』はアモーレパシフィックという大企業だ。韓国にはかなり多くのブランドがあるが、そのほかに日本で大きく成功したブランドはほとんどない。「定着させるためにはアメリカ同様にローカライゼーションが必要なのではないか」とチャン氏は見る。  実際、韓国コスメブランドのミシャは日本法人を設立し、本国と異なるマーケティングや商品展開で地位を確立しつつある。 また、日本でも韓国コスメスタートアップのようなスピード感とSNSでのマーケティングを意識した新興メーカーが成長してきている。  2016年に立ち上がったブランド「Fujiko」は日本で企画、マーケティングを行い韓国OEMで生産している。韓国発が先行する新発想アイテムと日本ならではの細やかさを融合させた製品を展開。機能性とパッケージが話題となり人気が広がり、中国市場でも売上を拡大している。これも一つのローカライゼーションに近い形といえるだろう。 (※1)美容液、保湿クリーム、ベースメイク、ファンデーション、日焼けなどを兼ねた化粧品 (※2)クッションにリキッドファンデーションが染み込ませてあり、パフに取って塗る。手を汚さず、時間短縮になる (※3)「韓国税関庁 年度別化粧品輸出入実績および貿易推移」より  世界で注目を集める韓国コスメ。日本でも若者を中心にブームが起きている。その背景と底力に迫る。 【03】韓国の化粧品業界(11月21日公開) 【04】ミシャジャパン(11月下旬公開予定)

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