就活生が企業を決めるただ一つの基準

人生の選択肢が増えるか

 大学生が就職活動を始めると、たくさんの会社が求人を出していることに驚くだろう。そして、どうやって会社を選んだらいいのか分からずに、就職サイトの前で途方にくれることになる。  大学生から「就職先をどうやって決めればいいのか分かりません」、「自分に向いている仕事はあるんでしょうか?」などと相談を受けることもある。僕の答えはいつも同じ。「人生の選択肢が一番広がりそうなところを選ぶ」だ。勉強も、就職も同じだが、進路を決める上で最も合理的なものが「選択肢を広げ続けること」である。  大学までは偏差値というモノサシに従っていれば、人生の選択肢を広げ続けてくれた。例えば東京大学を卒業すればグーグルやトヨタ自動車に入社できる確率は上がるだろう。官僚にもなりやすい。もちろん起業する選択肢もあるし、家業を継ぐこともできる。仮に1年間、世界を旅行してから就職活動をしても他の人よりも就職先は見つかりやすい。  ほとんどの人にとって、大学までは偏差値を基準に進路選択すれば今後の人生の選択肢を広げることができた。しかし就職活動ではその基準がない。  30年前であればとりあえず一流企業と呼ばれる会社や大企業を選んでおけばよかった。なぜなら、終身雇用が前提だったため、その後のキャリアを自分で考える必要が無かったからだ。言い方をかえると、自分の選択肢を広げる必要はなかった。自分のキャリアは会社が決めてくれるものであって、自分の意思で決めることがなく、会社の中で完結するものだった。  ところが、現在の就活生の多くは、もはや一つの会社で定年まで働くことなど想定していない。しかし、親や大学の就職課に相談しても「大企業に入るか公務員になりなさい」とか、「やりたいことができる会社を選びなさい」とまったく悪意なき言葉が返ってくる。  「人生100年と言われる長い人生を歩む上での最初の会社」の選び方について相談しているのに、大人たちは「65歳まで働く最初で最後の会社」という観点でアドバイスをしてくる。そして、就職活動に悩み戸惑う大学生が大量に発生してしまうのだ。  では、今後の人生において数社(数十社もありえる)で働き、同時期に複数の会社で働くことも想定している今の大学生はどのような基準で就職先を決めればよいのか。  それが冒頭に書いた「自分の選択肢が広がる場所を選ぶ」ことだ。人生の選択肢の広がりに比例した学力偏差値と同じような、人生の選択肢が広がる自分の基準を見つけることが大切になる。  その上で悩ましいのが、「人それぞれ選択肢の広げ方が違う」ということだ。例えば、社会や市場が求めるスキルや資格を持っていると人生の選択肢は広がる。以前、1年かけて世界中を旅行している看護師と話すことがあった。「看護師は各病院で引く手あまたなので、気が向いたら(予算が尽きたら)日本に帰って好きな場所で働くの」と話していた。  もちろん旅行でなく、子供の頃の夢だったお花屋さんを開業したり、資格の勉強をしてもよい。今ならエンジニアのような専門職や介護士も重宝されるだろう。  新しいことに挑戦し、万が一だめだったとしてもいつでも元に戻れる状況であれば、自分がやりたいことにチャレンジをすることができる。また、もし所属先に不満があれば転職しやすい。  他のケースだと複数の収入源を確保している人、いわゆるパラレルワーカーも幅広い選択肢を持つことが可能だ。新しいことに挑戦する場合も、いくつかの収入源を残しておけば、まったくの無収入になることはない。逆に一つの収入源に頼っている人にとっては、いざ新しいことをやろうとしても躊躇してしまう。  せっかく大手企業に正社員として入社しても、社外で通用するスキルを持っていなければ、「会社にしがみつく」以外の選択肢がないため、退屈な人生になりかねない。  人生の選択肢の広げ方には人それぞれに適した“カタチ”がある。しかし全てのケースに共通することが「いつでも辞められる」状況を作る、ということだ。看護師の例も、パラレルワーカーの例も辞めたいときにやめることができる点が共通している。  逆にやめることができない状況というのは、人生の選択肢を奪い、人生を固定化してしまう。就職活動において、最も重視すべきことは「その会社を辞めた時、次のキャリアはどういう候補があるか」であり、「その候補が多く、魅力的である会社」を選ぶことがファーストキャリアを決める判断基準になる。 (文=田鹿倫基<日南市マーケティング専門官>)

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