スピルバーグとともにやって来たアップルの「特別な1日」

動画配信でサービス会社に?

スピルバーグ監督(アップル公式動画より)

 米アップルはサービスの会社になるのか―。アップルは25日(日本時間26日)、定額制の動画配信サービスに参入すると発表。業績をけん引してきたスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の販売数が頭打ちを迎える中、次の収益源になるか市場は見極めようとしている。動画配信では大手がすでに大きく先行しており、激しいシェア争いが世界的に始まる。  映画監督のスティーブン・スピルバーグ、女優のジェニファー・アニストン、大物司会者オプラ・ウィンフリー。発表会にアップルが呼び寄せた豪華な顔ぶれが新サービスにかける思いを物語る。  定額見放題の動画配信サービス「アップルTV+(プラス)」は年内に100カ国以上で展開する。TV番組や映画、ドキュメンタリーなどが楽しめる。スピルバーグ監督は製作にも参加する。アップルのティム・クック最高経営責任者は発表会後にツイッターを更新し、「忘れられない1日となった」と興奮を隠さなかった。  後発となるアップルの成功のカギとなるのはオリジナルコンテンツだ。アップルはアプリを通じて配信するが、このアプリが関係者内で「ネットフリックス・キラー」と呼ばれていることからも競合相手は明確だ。  米ネットフリックスは放送局やハリウッドの映画スタジオも上回る規模の資金を番組製作に投じた。今や映画賞レースの常連であり、動画配信サービスの世界最大手だ。  2018年は85億ドル(約9400億円)をコンテンツ製作や外部の番組の調達に使う。ネットフリックスだけでなく、米アマゾン・ドット・コムも有料会員向けオリジナル作品の提供を拡大するほか、米ウォルト・ディズニーも今秋以降に参入予定だ。  アップルはオリジナル番組の費用に10億ドル規模の予算を投入する。今後、独自コンテンツにどこまで巨額投資できるかが成長市場の覇権争いの焦点だ。  「アップルはサービスの会社になる」「終わりの始まり」―。アップルの業績減速を受け、市場関係者の視線は年明け以降、厳しいものとなっている。  1月に発表した18年10―12月期決算は約10年ぶりの減収減益となった。スマホの買い替えサイクルが長期化し、iPhone販売の伸び悩みは隠せない。そこでアプリ販売や音楽配信などサービス事業の強化を打ち出しており、動画配信サービスもその一環だ。  実際、18年のサービス事業売上高は400億ドル弱で、前年に比べて3割以上伸びた。20年には500億ドルを目指すが、これは16年比2倍だ。25日の発表会でも、ニュース配信や定額制のゲーム配信サービスの開始を動画配信サービスとあわせて発表した。  ただ、市場では懐疑的な見方も多い。ニュース配信への参加は、主要メディアは米ウォール・ストリート・ジャーナル以外は見送った。ゲーム配信も米グーグルがすでに参入を打ち出している。「すべて後発」との指摘は一見もっともだ。  発表会の軸だった動画配信はアマゾンなどサードパーティーにもアプリを提供し、コンテンツを配信する。サービスの提供を自社端末に限定しようとしてきたアップルからすると異例の一手にも映る。これを巨大IT企業「プラットフォーマー」であるアップルの凋落(ちょうらく)と見る向きもある。  アップル共同創業者の故スティーブ・ジョブズは自社を「ライフスタイル企業」と位置付けた。ソフトウエアの普及にはハードウエアが必要と強調していたことも有名だ。アップルの本質は以前から、単なるハードウエアの企業ではない。  アップルはすでにサービス業での十分な成功体験がある。03年に始めた音楽配信事業「iTunes Store(アイチューンズ・ストア)」だ。競合する米マイクロソフトの基本ソフト、ウィンドウズにも対応した過去がある。外部に自社のサービスを開放するのは初めてではない。  とはいえ、アップルが新たなステージに挑むのは確かだ。発表会ではiPhone向けクレジットカード「アップルカード」も披露したように、これまでにない試みも多く目についた。果たして、アップルの焦りなのか、成長の新たな源泉となるのか。  日本の定額制動画配信市場はサービスが乱立し、競争が激化している。このため、アップルの新サービスが一気に日本市場の主役に躍り出るとは考えにくい状況だ。  特にアマゾンが提供する「アマゾンプライム・ビデオ」の壁は高い。ネット通販の顧客向け会員サービスとして展開し、月400円(消費税込み)で配送料無料などの特典とともに利用できるため、割安感が大きい。複数の動画配信サービス事業者が「我々とは事業形態が違うため、戦うのは正直難しい」と漏らすほどだ。  動画単体で勝負するサービスではHulu(フールー)に存在感がある。14年に日本テレビの傘下に入り、先行投資を重ねてきた。地上波ドラマと連動した作品などにより集客し、有料会員数は日テレ傘下入り前の3倍ほどに拡大した。  ネットフリックスは、日本参入時に「黒船」と呼ばれたほどの存在感は示し切れていないが、潜在力は高い。顧客獲得のカギとされる独自作品の制作力には定評がある。そのほか、国内勢ではU―NEXTをはじめ、米ディズニーはNTTドコモと連携し、今月参入した。アップルといえども頭角を現すのは容易でなさそうだ。 (文=栗下直也、葭本隆太)

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