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ちょっと特別な調理器具で日常に彩りを、燕三条ヨシカワのものづくり

ちょっと特別な調理器具で日常に彩りを、燕三条ヨシカワのものづくり

調理器具がずらり並ぶ本社ショールーム

 おたまや鍋、やかんといった調理器具を販売しているヨシカワ。同社の製品の9割近くは、同社が本社を構える新潟県中央部の弥彦村や隣接する燕三条地域で作られる。吉川力社長は、自社製品をスタンダードより少し高級なものと位置づける。その戦略を地域のものづくり企業が支えている。

燕三条の技術力が支える


 ヨシカワの本社2階にあるショールームには、燕三条地域と聞いて多くの人がイメージするような金属製のおたまや鍋、ビアタンブラーなどが所狭しと並び、来場者を出迎える。これら製品の多くは、同社が本社を構える弥彦村や隣接する燕三条地域で生まれている。

 「海外製の安価な調理器具が多く輸入されている現状に、価格競争には打ち勝てない」と感じた吉川社長。自社製品は「プレミアムビールのように日常に特別感を抱かせるような商品戦略」(同)を打ち出す。

吉川力社長

 「ふだんより、ちょっといいもの」―。そのモノづくりを支えているのが、本社周辺の燕三条地域にある協力企業の技術力だ。調理器具の品質は、材質選びから出来映え、どの加工をどれくらい施すかなど多彩な要素が絡み合う。「地域の協力企業は金属のことを知り尽くしているから、必要な要素全てを最適なバランスで仕上げてくれる」と吉川社長は強調する。

地域が持つポテンシャル


 2016年度の工業統計調査によると、燕三条地域の事業所数は1368社。うち約8割を機械・金属製品製造業が占める。焼きや曲げから、絞り、表面処理、機械加工に至るまで金属加工におけるノウハウと経験値を多く持ち合わせた企業が集積。三条市の國定勇人市長も「金属加工なら、この地域に丸ごと任せてもらえば、依頼者の望むクオリティで仕上げられる」と常々語るほど、金属加工における計り知れない強みをこの地域は持っている。

 現在の兄弟会社である吉川金属が1946年に金属問屋として創業したのが、調理器具などを製造販売するヨシカワとステンレス鋼材の加工販売を展開する吉川金属で構成する吉川グループの発祥。新潟県上越地方で民生用ステンレスの生産を開始した当時の日本ステンレスから、生産時に発生するスクラップの供給を受ける形でスプーンやフォークの事業を始めたのが、食器ビジネスに進出したきっかけだ。

 現在も、ヨシカワが開発した製品案をもとに、協力会社は吉川金属などから鋼板を調達して調理器具をつくり、ヨシカワのルートで販売するビジネスを展開している。協力企業の加工に関するノウハウとヨシカワの開発力が融合して生まれた調理器具の象徴が、「EAトCO(イイトコ)」のブランドで販売されるバターナイフだ。クロム系ステンレスを用いて刃のように加工されているため、冷えて固まったバターでも糸状にすくってパンに塗ることができるのが特徴だ。既存のバターナイフの使いづらさに不満を持った開発陣が、材料選びや協力企業との二人三脚で製品化した。一風変わったブランド名は「EAT+COOKING」、キッチンからダイニングへボーダレスに楽しさや心地よさを演出してくれる道具を創りたいとの思いが込められている。価格は1000円超とバターナイフとしては割高だが、英国をはじめ欧州諸国でも販売され、高い評価を得ている。

ニーズは世界中にある


 ヨーロッパをはじめ世界に愛用者を持つヨシカワの調理器具。それだけに、文化やライフスタイルが異なる市場のニーズをどれだけ早くつかみ、形にしていくかが成長のカギだ。吉川社長を筆頭に、同社のスタッフは積極的に海外の展示会に調理器具を出展し実演。潜在顧客の発掘はもとより、現地の反応を知り製品化へのヒントを得る活動を続けている。そこで生まれたアイディアを、協力企業と議論を重ねて製品として具現化する-。これが、ヨシカワのビジネススタイルであり、地域貢献の姿勢でもある。
【企業情報】▽所在地=新潟県西蒲原郡弥彦村大字大戸635の3▽社長=吉川力氏▽設立=1952年4月▽売上高=約50億円(18年6月期)
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
吉川社長は、自社の姿を「旅商人(たびあきんど)」と表現する。さまざまな暮らしの場面に潜むニーズを顕在化させて製品にすべく、これからも世界を飛び回る。

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