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筋トレなし「即マッチョ」に!?ムクムク膨らむアシストスーツ

電気通信大が肉体美を表現、用途は?
 空気で膨らむエアーアシストスーツの研究が注目されている。スーツの内側の空気袋を膨らませて筋骨隆々に見せたり、姿勢矯正や腰痛予防など、体の外見と中身の両面で用途開発が進む。スーツを着るのは人間に限らない。ヒューマノイド(ヒト型ロボ)が着れば、一つのロボット骨格で多彩な人物になりきれる。

 電気通信大学の高橋宣裕大学院生(日本学術振興会特別研究員当時)は体形を変化させられるヒューマノイド用スーツ「SHIN―TAI」を開発した。空圧式の人工筋肉とシリコンビーズを充填した空気袋で筋肉の形や硬さを表現する。

 腹筋や大胸筋、上腕二頭筋など、16個の筋肉をそれぞれ独立して制御し、力の入れ具合を表現できる。袋から空気を抜けばシリコンビーズが圧縮されて硬くなり、その上で人工筋肉を収縮させると筋肉に力を入れている様子が再現できる。

 この筋肉スーツの上に脂肪スーツを着せることで筋肉と皮下脂肪を合わせた肉体美を表現できる。脂肪スーツでは袋の中に液体を充填するため、重力に負けた脂肪のたるみを表現できる。高橋特別研究員は「女性らしい豊満な体から、男性らしい筋肉質な体まで連続的に表現できる」と胸を張る。

 少女体形からボディービルダー、豊満な女性から肥満体形など、体が滑らかに変わる様子は芸術でもある。高橋特別研究員は「まずは動的人体彫刻として発表したい」という。将来、ヒューマノイドが普及するときには、ロボットの基本骨格はそのままに、ユーザーが好みの体形に調整できるようになる。

 人間の着るエアーアシストスーツの研究も盛んだ。介護支援や腰痛予防などニーズが明確なため実用志向の研究が多い。滋賀県立大学の西岡靖貴助教は腰痛予防のコルセットとしてスーツを開発した。空気を入れると腰を締め固めて、空気を抜けば拘束を解く。

 空気を抜けばただのプラスチックフィルムに戻り軟らかくなる。ゴム式のコルセットに比べてユーザーが圧迫度を調整しやすい。

 試作品を看護学部の学生に試してもらったところ、75%が楽になったと回答した。西岡助教は「電動のエアーポンプを採用したが、手動ポンプでも十分かもしれない。農業や物流など作業現場に応じて構成を変えたい」と説明する。

 エアーアシストスーツは軽く、装着しやすく、人体を壊すほどの力が出ないよう設計できる。まずは腰痛予防などの実用化が進むが、外見の制御も可能だ。将来は筋トレをしなくてもなりたい自分になれるかもしれない。スーツと一緒に夢も膨らむ。

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年6月22日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
「SHIRI」の高橋さんが新作を作っています。また空気バックのようなソフトアクチュエーターの研究が広がっています。腰痛予防などのウエアラブルとロボットとして構成するもの両方で研究が増えています。従来のモーターとメカとは違って精密な制御は難しいのですが、使いこなせば便利なので実用先は広いと思います。

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