化粧品・日用品「メード・イン・ジャパン」で進む国内生産回帰

人員確保や品質維持などに課題も

依然アジアで日本のモノづくりのこだわりや品質の高さが評価されている(松屋銀座の化粧品売り場)

 化粧品・日用品業界で、生産の国内回帰が加速している。背景にはメード・イン・ジャパンを求める、訪日外国人(インバウンド)の存在がある。これまで資生堂やコーセーなど大手各社は、生産を海外にシフトし、コスト低減を進めてきた。だがここに来て、日本製を求める外国人に後押しされるように国内工場の新設や設備増強を加速している。  資生堂は供給確保に向け、2018―20年度の3カ年累計で1300億円を投資する。19年度に栃木・那須工場、20年度には大阪新工場が稼働予定だ。現在、既存の国内3工場(静岡・大阪・埼玉)では週末もフル稼働だが、それでも追い付かないほどの需要がある。  保坂匡哉執行役員は、36年ぶりの国内工場新設について、「日本製への要望が高く、国内外で需要に供給が追い付いていない。中でも最も不足しているのが日本だ」と話す。  中国をはじめとするアジアではジャパン・クオリティーへのこだわりが強い。「日本のモノづくりへのこだわりや品質の高さに目覚め、価値を見いだすようになった」(保坂執行役員)と分析する。  新工場稼働までの1―2年は、多品種を生産するラインを売れ筋商品のラインに切り替えるなど、対策を講じて、しのいでいく。原材料の調達については、サプライヤーとの契約更新を進め、「今年後半から今まで以上に調達を拡大する」(直川紀夫執行役員常務)と見通す。売り上げが好調な商品に軸足を置き、バランスを取りながら生産する。  コーセーは17年3月、群馬工場に60億円を投資し、新生産棟を稼働した。稼働から1年でフル生産の状態だ。新本浩一執行役員(コーセーインダストリーズ社長)は「このまま順調に伸びていけば、床面積は足りなくなるだろう。今後3年は持つだろうかという感じ」と話す。  今後の工場新設は、メード・イン・ジャパンのこだわりや品質管理の点から、国内で投資を続ける方針だ。化粧品製造の工程の中でも化粧品の中身製造への投資を図る。一方、人手が必要となる、瓶詰めや箱入れなどパッケージ工程については、外部委託を広げるなどメリハリを付けて対応する。  20年に売り上げ3000億円以上、営業利益率10%を目指し、化粧品事業をテコ入れすると新方針を発表した花王。村上由泰執行役員(カネボウ化粧品社長)は「タイトな供給体制は他社と同じ。増産に向けラインを増強している」と話す。  メード・イン・ジャパン需要は、アジアを中心に根強い人気を誇る。ここ最近は化粧品にとどまらず、紙おむつやハブラシを中心とする口腔(こうくう)ケア用品、医薬品、ヘルスケア商品などにも広がる。  ライオンは洗口液を中心に国内需要が高まり、ハブラシや洗口液の増産に約30億円を投資。子会社のライオンケミカルはオレオケミカル事業所(香川県坂出市)にハブラシの新生産棟を建設中で2019年に稼働予定。オレオケミカル事業所で、ハブラシの生産能力を3倍に増やす。国内全体で約1割の増産となる。  明石工場では洗口液を生産する新生産棟が19年春に稼働予定で、国内生産能力を2倍にする。アジアで洗口液は普及していないが、国内では、口腔ケア意識の高まりからオーラルケアブランド「ノニオ」を中心に右肩上がりで成長を続ける。  27年ぶりに、栃木県栃木市に工場を新設するのはエステー。約31億円を投資し、カイロや温熱製品を製造販売するマイコール(栃木県栃木市)のカイロ事業を買収して引き継ぐ。  エステーにはなかった温熱技術を取り込むことによって、吉澤浩一取締役執行役は「新しいヘルスケア分野の商品も展開していきたい」と話す。まずは新技術の継承と安定供給を進め、将来的に国内工場のバランスを図り国内生産の再編も検討する。  国内だけでなく、海外でもタイを拠点に現地生産・現地販売を強化。現地向けの消臭芳香剤「シャルダン Kawaii Plus」を発売した。  鈴木貴子社長は「マーケティング費用を積極的に展開し、タイからASEANに展開していきたい」と話す。海外売上比率10%の早期達成を目標に掲げる。インバウンド需要はないと言い切るが、タイを中心にアジアで認知度が高まり、それがインバウンドにつながれば相乗効果となる。  ユニ・チャームは福岡県苅田町に新工場を建設中で、18年12月に稼働予定。九州に工場を建設するのは初めてで、事業継続計画(BCP)の点からも供給体制を強化する。ベビー用紙おむつのインバウンド需要は安定しており、日本製需要は高い。ベビー用紙おむつは中国への越境ECが約2・6倍拡大し、帰国後もECを通じて購入するリピーター需要が増えている。  国内は人口減少で消費財市場の縮小が懸念される。だが、高付加価値品投入による新市場の形成や、越境ECによる海外市場の取り込みなど、新たな需要を掘り起こす。  一方、生産に直結する工場では、人員確保や職場環境の整備が急務となっており、正社員化や働きやすい環境づくりを進める。人手不足が社会問題の一つとなる中、人材の確保と定着に独自の工夫を凝らしている。  資生堂は工場で働く女性が7割を占める。保坂匡哉執行役員は品質作りの基本を「人が快適に、誇りを持って働くことだ」とし、生産現場においても人材への投資を強化している。今後稼働する那須工場や大阪新工場だけでなく、既存の国内3工場(静岡・大阪・埼玉)においても、女性が働きやすい工場をコンセプトに改善する。  工場の環境整備に向け、2017年11月に若手女性を中心とする「ワクワクプロジェクト」を発足。各工場の若手女性を中心に建築会社の女性も交えて、化粧品会社の工場はどうあるべきかなどを議論している。パウダールームや休憩室を新設し、トイレや食堂も改装する。  魚谷雅彦社長や担当役員が各工場をまわって、対話会を実施。現場の声を改善につなげる。保坂執行役員は「職場環境の改善は人材の定着にもつながる。ワクワクプロジェクトも対応策の一つ」とし、風土改革を進める。  人材確保を狙い、工場の正社員化も進む。ライオンは、雇用期間が5年を超えたパートやアルバイトなどの臨時雇用者を無期雇用に転換する社員制度を新たに設けた。高度な技術・知識を要する「シニアクルー社員」や、事務作業などを対象とする「クルー社員」の二つで、千葉工場、小田原工場、大阪工場、明石工場の国内4工場の臨時雇用者約500人が対象。  資生堂は18年度中にも、既存3工場の契約社員のうち希望者について正社員化を進める。7月には那須工場に勤務する社員が入社。稼働までの間、既存工場で生産や品質に関する研修を受ける。供給能力は、工場を新設するだけでなく、量産体制が構築できてはじめて上げられるため、人材育成に注力する。  カイロ製品を生産する新工場を栃木に建設中のエステーは、買収先のマイコールの社員約120人を引き継ぎ人材を確保する。各社、独自の取り組みで工場の人材不足解消に向けて手を打っている。パッケージなど人手が必要な仕上げ加工では、自動化や外部委託を進め、人員配置の最適化も図っている。  国内では製造業の品質問題が相次ぎ、メード・イン・ジャパンの信頼が揺らぐ事態も起きている。一方で、化粧品・日用品のインバウンド需要は当面、好調に推移するという見方が強く、好環境が続く見通しだ。とはいえ、闇雲に供給体制を拡充し、生産量を増やしたのでは、メード・イン・ジャパンに求められる品質を担保できない。根底には、品質への追求が常に求められる。 (文=高島里沙)

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