AI脅威論を議論してきた検討会が“ちゃぶ台返し”のワケ

内閣府の検討会

 内閣府の人工知能(AI)の社会的影響を議論してきた検討会が方針を大きく変更した。従来のAI脅威論などへの対応を議論してきた方向性を変え、2018年度は産業界と情報系研究者のメンバーを増やして産業競争が前提のAI原則や国際戦略を検討する。経済協力開発機構(OECD)などにAI原則を提案する予定だが、想定スケジュールからは約1年遅れる。限られた期間で検討範囲を広げ議論を深める。 「最初にちゃぶ台をひっくり返した。前回まとめたAI原則をなぞるだけでは今回のメンバーを招集した意味がない」と北野宏明ソニーコンピュータサイエンス研究所所長は説明する。北野所長は副議長を務め、会議では「ビジネスで存在感がなければ指針を示しても誰も従わない。(先行する)海外のITプラットフォーマーの決めたルールに従うことになる」と繰り返した。国として基本原則を何度作り直しても、まずプラットフォーム競争に勝たないと実行性が伴わないためだ。原則だけ並べても「ペイ・リスペクト(尊重はする)で終わりだ」と指摘する。  検討会は、16年度に大臣懇談会として設置された。AI研究者と労働法や教育、社会などの専門家を集めて多角的な議論を重視した。AIに支配されるといった脅威論を静め、現実的な政策議論を導く効果があった。  18年度は方向性を一部見直す。会議体を人工知能技術戦略会議の下に位置付けて産業界メンバーを増やし国際競争に勝つための基本原則を検討する。  そもそも技術開発や産業競争に、国の掲げる基本原則が影響力を持ち得るのか。北野所長は「米グーグルやアマゾンはOECDやG7などを気にしていない。ルールは自分で作る」と懸念する。  そこで議長を務める須藤修東京大学教授は「医療や個人情報保護など公共がもつデータは国が取り扱いを決められる」と指摘する。原則無視が起こり得る前提で公共データや規制を盾に巨大プラットフォーマーと渡り合う。  大屋雄裕慶応義塾大学教授は「国際会合に示すきれいな基本原則と国内の戦略をすり合わせる必要がある」という。世界の共通原則という建前に、日本が有利になる戦略を組み込めるか問われる。  前回会合に比べ社会の非理性的なAI脅威論は落ち着いた。だが他国での国家統制や市民による世論操作など、懸念を抱くAI利用例が報告されている。世界では権力者だけでなく、その支持者も主張やフェイクニュースを広げるためにAI技術を利用する。須藤議長は「基本原則に実行性を持たせるには国や国際連携によるものなど、あらゆるプレッシャーが必要」という。  原則論から実行性に踏み込み、検討会で検討すべき範囲は広がった。そのため当初は18年5―6月の国際会合で成果報告する想定だったが、19年会合にずれ込む。それでも検討会は約半年、6回の議論で報告書をまとめることにした。  北野所長は「半年かけて結果を示せなければゲームオーバー。技術や社会の変化は速い。ゆっくりしていては誰も耳を貸さない」と気を引き締める。 (文・小寺貴之)

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