停滞する有料動画配信、抜け出すのはやっぱりアマゾン!?

ネット通販と相乗、競合他社の警戒感は日増しに高まる

「Amazonプライム・ビデオ」公式サイトより

 定額制動画配信サービス市場が過当競争の様相を呈している。相次ぐ参入による競争激化に、シェア2位のHJホールディングス(東京都港区)の「Hulu(フールー)」は黒字化を先送りし、先行投資で会員数拡大を優先する。シェアトップのNTTドコモの「dTV」もテコ入れで地位確立を急ぐ。日本は動画視聴にお金を支払う文化が根付いていないため、米国に比べて市場の成長は遅く、業界大手も危機感を隠さない。  「今先行投資を緩めれば競合に顧客を奪われる可能性がある。戦うべきときは戦わなくてはならない」。HJホールディングスの於保浩之社長はそう力を込める。  同社の「フールー」の2017年4―6月期業績は、営業損失が前年同期比5倍超の11億円に膨らんだが、於保社長は意に介さない。市場競争は激化しており、今期は費用先行で顧客基盤を強化する勝負どころと判断した。18年3月期に定めていた黒字化達成の目標時期を1年先送りし、安定水準とみる会員数200万人の確保に向けて45万人の上積みを急ぐ。  フールーは14年に日本テレビの傘下に入り、巨大メディアを窓口にした広報・宣伝(PR)で認知度を高めた。特にテレビ番組との連動企画が奏功。日テレ傘下入り後に会員は2・5倍に拡大したが、それでも「期待したほどは伸びなかった」(於保社長)という。  伸び悩みの理由は二つ。市場の成長率の低さと相次ぐ企業参入だ。米国では07年に「Netflix(ネットフリックス)」が動画配信サービスを始め、約7割の世帯に普及するケーブルテレビの割安な代替サービスとして普及した。  これに対して日本は元々有料放送市場が小さく、動画視聴にお金を支払う文化が一般に根付くには時間がかかるとされる。  ただし、市場が右肩上がりなのは事実だ。そこに事業機会を見込んだ企業の参入が相次いだ。MM総研(東京都港区)によると現在の参入数は「60件程度」と推計される。成長の緩やかな市場にプレーヤーが乱立している。  フールーはこうした市場環境を踏まえ、顧客基盤を強化するためにコンテンツ調達やPRの投資を拡大している。さらに7月にはヤフーの出資を受け入れた。  17年内にも同社との連携体制を構築する見通し。ヤフーの宮坂学社長は「我々の動画配信サービス『ギャオ』の無料プランと(フールー)の協業を検討する」ことを出資の狙いとしており、フールーは独自コンテンツなどをギャオに提供すると見られる。フールーは巨大ポータルサイトを新たなPR窓口として活用し、会員拡大へたたみかける。  定額制動画配信サービスでは携帯大手も市場のけん引役となってきた。動画はモバイル端末による視聴が多い。携帯大手はモバイル利用者の顧客基盤を持ち、全国に店舗も構えるため販促活動で優位にある。  NTTドコモの「dTV」が積み上げた500万人弱の契約者数はそうした顧客基盤のたまものだ。ただ、その会員増加の流れも、市場競争の荒波にもまれて停滞感が出ている。シェア首位ながらも「定額制動画配信は主要プレーヤーが固まり切っていない」(同社幹部)と危機感をあらわにする。  そこでNTTドコモはサービスのテコ入れを図る。18年1月にアニメや映画など30件以上の専門チャンネルが見放題になる「dTVチャンネル」を始める。  dTVとセットで月980円(消費税抜き)の割安感などを訴求する。定額制動画といえば『ドコモ』と認知されるように取り組みを加速する構えだ。  競争の激しい市場で特に勢いを増しているサービスが「Amazonプライム・ビデオ」だ。独自コンテンツを次々と配信し、PR活動も盛んな姿に競合他社の多くが「一番怖い相手」と警戒する。  プライム・ビデオはネット通販の顧客向け会員サービスの一つとして会費据え置きで15年9月に追加された。このため元々の会員は無料の感覚で利用できる。動画視聴のために会費を支払うとしても年3900円(消費税込み)と他社に比べて破格の安さだ。  その背景には動画視聴により顧客を囲い込み、ネット通販の利用を促すことで収益が得られる強みがある。動画配信単体で勝負するある事業者は「我々とは事業形態が違うから」と苦笑いを浮かべる。  アマゾンジャパン(東京都目黒区)の関係者は「動画視聴目的の加入者がいる」と、プライム・ビデオが会員拡大のエンジンになっていることを明かす。6月に月400円(消費税込み)の会費プランを始めた際には「動画サービスの安さを鮮明にするのが狙いでは」(業界関係者)と取りざたされた。アマゾンへの競合他社の警戒感は日増しに高まっている。  一方、日本市場参入時に黒船と呼ばれた米国勢の1社「ネットフリックス」はさえない。同社は「会員数はよい形で上向いている」と強調するが、市場における存在感は薄い。  メディア業界に詳しい次世代メディア研究所(東京都杉並区)の鈴木祐司代表は「そもそも日本進出の狙いはアニメなどの海外で通じるコンテンツの調達。ネットフリックス自身も日本単体で簡単に黒字化できると見込んでおらず、短期的に存在感を増すとは考えにくい」と話す。  ただ、業界関係者からは「独自コンテンツの質は高い。日本向けの作品に注力すれば浮上の可能性はある」との声が多い。 (文=葭本隆太)

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