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《TBS編》ザ・インタビュー#2~ベンチャー投資で挑む改革の真実~

片岡正光次世代ビジネス企画室投資戦略部次長「シナジーは検証しづらい。だからこそ投資で失敗しないこと」
 インタビューの2回目はCVC立ちあげの経緯から具体論に入っていきます。

 テレビ局はみんな面白いことが好き。番組としてもベンチャーは絵になる

 ―最初にベンチャーピッチをやった時に大盛況だったと言われましたが、もともと新しいものに飢えているという兆しみたいなものがTBSにあったということですか。
 「テレビ局ってベースとしてはみんな面白いことが好きなんです。ただベンチャーと言った時に、『関係ない』という人が圧倒的に多い。まあそりゃそうです、普通は。僕もそうでした。とりあえずやってみないと分からないからやり続けたのですが、途中、参加者が段々減っていくわけですよ。しかも出てくる人も固定化してくる。それでベンチャーだけでなく(ベンチャーキャピタルの)サムライインキュベートの榊原(健太郎代表)さんとか、ベンチャー関連で刺さりそうな人を呼んでみたり工夫もしました」

 「結果としてはベンチャーイベントをやってみたらうまくいったのですが、それも試行錯誤の過程の中で。それと、テレビ局なので面白い人が来て番組のネタにでもなればいいやというのもありまして。ラクスルの松本(恭攝社長)さんにプレゼンしてもらった時に、事業モデルも素晴らしいんだけど、結構、報道の人間がひっかかったのは、『彼のやってることって、画として作りやすいよね』という視点だったんです。苦しんでいる印刷屋さんが新しい技術で新しいビジネスが生まれて喜ぶ、みたいなストーリーができる。実際に『がっちりマンデー』のディレクターがベンチャーに関心を持ってくれたり、『夢の扉』のプロデューサーも関心をもってくれたりと、番組制作者にも多少なりともアピールできたと感じています」

 20~30代の会社を背負う若手が面白いベンチャーを連れてくると目を輝かせる

 ―現時点のチェンジマネジメントで一番手応えを感じている部分はどのあたりですか。
 「やっぱりこれからの会社を背負って立つ20~30代の人たちが、面白いベンチャーを連れてくると目を輝かせて、自分たちの新しい仕事につなげようと考えてくれていることですね。最近Fringe81というアドテクノロジーを生かしたネット広告会社に出資したんですけど、営業の優秀な若手がFringe81と一緒に、すぐにITの広告解析技術を使ってテレビとイベントスポンサーと連動した高い広告効果を導きだして、クライアントからもの凄く評価をもらったり。僕はきっかけを与える係で、それが少しでも広まってくれればいいんです」

 ―片岡さんのチームはそれほど人を抱えているわけではないんですよね。
 「はい。投資自体のチームは今、6人なんですけど、本業でフルコミットしているのは僕ともう一人。あとは兼務です」

 シナジーはものすごく検証しづらい。だからこそ投資で失敗しないこと

 ―局のカラーが出た方が良いという文脈の中で、投資先の判断基準はどうなっているんですか。
 「僕自身は会社の中でイノベーションが起きるようなきっかけになることを最大のポイントにして決めています。CVCでよくいわれるシナジーは、ものすごく検証しづらいんです。一番単純なのは、売り上げが増えるか、経費が削減されるか。形で見えやすいのは経費の方ですよね。実際に大きな会社に発注するよりも、早くて質がよくて安価なベンチャーにお願いして喜んでもらえることもあります。でも、我々よりもっと大きい事業会社だと顕著なんですけど、それって通常の仕事からみたら大した金額ではないんですね。まさに誤差」

 「だけど、今のようにまだCVCをはじめて間もない時だからこそ、小さくても成果があったということを理解させてくためには、実は‘もう一方’がものすごく大事になる。つまり、投資として失敗しないということ。会社の重要な資金をファンドという形で預かって運用しているけど、シナジーよりもファンドのパフォーマンス、ファイナンシャルリターンの方を軽くみない。重く考えるということ。そっちでうまくいかないと、止めろという声が出てくる。今のフェーズはホールディングスのお金だけでやっているので、成果を出さないとバックオフィス(管理部門)は絶対に止めろという風になる。小さくても一歩でも前に進んでイノベーティブなものを提供するために、最低限、投資として成功する確率の高いものが僕の前提になります」

 ―現時点で社内で「止めろ」という声は。
 「おかげさまで今のところは大丈夫です(笑)。1年半にCVCで7件出資して、それに加えてベンチャーファンドに4件入れていて、トータルのパフォーマンスとしてはものすごくうまく回っている。実際にM&Aされている案件もありますし、データセクション(東京都渋谷区)は上場された。協業案件ももともと評価してもらっているし、いまのところ投資実績も大丈夫なので、社内の特に上層部の方には応援してもらっています」

 最初は経営陣にCVCをやるべきではないというレポートを出した

 ―そもそも新事業に関わったきっかけは?片岡さん自身が手を上げたのですか。それとも社の辞令とか。
 「自分で手を上げました。2013年の前半に、競合のフジテレビさんとかのCVCがいくつか立ち上がる中で、社内でも、『あれってどうなのか?』ということがテーマに上がったんです。クリエイティブな会社なんですけど、伝統とかをものすごく重んじるし、免許事業者なのでミスが許されない、そのためどうしても前例踏襲型になる。これを何とか変えていけるといいと。その頃からいろんなレイヤーで外部の人たちをうまくできないかいう課題感がありました」

 「経営トップからも意見を求められて、僕は経営企画の人間で当初はCVCに反対するレポートを書いたんですよ。止めた方がいいと。それは合理的に考えると、結構やれないんですよ。投資は、リスクとリターンの見合いなんですけど、当初日本のベンチャー投資ってリスクがとても高くてリターンが少ないと感じました。何よりマーケット環境として米国のように買ってくれる会社も少ないですし、IPO(株式公開)も爆発的にすごいレベルまではいかない。どうなのかよくわらない状況で、リスク幅を埋めるために、日本のベンチャー投資は専門のVCがハンズオンという経営支援をして投資家として自らリスクを下げている。こんなこと自分達にはできませんよ!まあ何より、反対したのは、その時自分がそもそもCVCをまだよく理解していなかったということもあるんですけど」

 他局がやっているのは何らかしらの勝算があるんじゃないか?という社内の声 

 ―少なくともハンズオンできる企業能力がないとできないと考えたわけですね。
 「有名なところでは米国のゼネラル・エレクトリック(GE)とか、日本ではLIXILのようにM&Aでグループ内に取り込むことが、その企業の強みになっている会社はいいですけど、我々は結局放送事業から収益の大半を稼いでいる単一事業会社みたいなものなので、もともと大半の人が番組制作者なんです。ベンチャーのマネジメントにコミットメントできる人間がほとんどいないんです」
 
 「そしたら、そこは僕の上司は僕よりずっと見る目があって、フジテレビは当時、業界でも有名な亀山常務(現フジテレビ社長)が、CVCの社長になって『行くぞー!』と盛んにメディアで言ってる。日本テレビは中期経営計画で500億円投資に使うと発表した。みんなが注目している中で、ヒト・モノ・カネに情報がベンチャー等から競合社に流れるんじゃないか、何らかしらの勝算があるんじゃないか、と。だから真剣に中に入って調べてみろと、ズバっと言われたんです。そこから直ぐにプロジェクトチームで3―4ケ月リサーチに入りました」

 熱量を伴った完全なる主旨替え。このベンチャー面白い!と思ったらすぐ面談

 ―そこでどのようなリサーチを?
 「まずはもうイベントにバンバン行きました。例えば最初の頃にサムライインキュベートのイベントに行きました。もう衝撃で。イベント会場に座布団ひいてあるんですよ。学園祭みたいで、間違ったとこきちゃったかな?と孤独感を感じながらいたんです。そしたらトーマツベンチャーサポートさんとかもいて、ようやく名前の知っている監査法人があった、ああ~よかったと(笑)。支援者も若くて元気ですばらしい人がたくさんいることが分かったんです。ベンチャーも紹介してもらって。トーマツさんのモーニングピッチにも行って、このベンチャー面白い!と思ったらすぐ面談しました。とにかく会わないと分からないので」

 「投資したマネーフォワードの辻(庸介社長)さんとか、アイリッジの小田(健太郎社長)さんとか、最初のころにお会いした。小田さんはもともとNTTデータで、ボストン・コンサルティングだし、辻さんもソニーからマネックス証券で、みなさん、ものすごいキャリアを持ってて、しかも優秀な人たちがベンチャーに挑戦されている。こういう人たちを自分たちの近いところに持ってきたら、特に若いヤツらと化学反応が起きるんじゃないかと」

 ―熱量を伴った完全なる主旨替えですね。
 「そうです(笑)一緒にやっていた当時の上司、TBSイノベーション・パートナーズの代表をやっていた仲尾(現 TBSテレビ メディアビジネス局長)なんですけど、仲尾と一緒にこれはやるべきじゃないかという話になって、経営側に上げて、それじゃやろうということになったんです。この点は会社に理解があってありがたかったです。でも僕らは投資をやってきた人間ではないので、投資業務はどうするんだ、ということになって。フジテレビは中途採用で、金融系の人をメンバーに入れたりしていると聞きました」

 ファイナンスとリーガルは外部にまかせればいい

 「最初、僕はGP(無限責任組合員)の意思決定者はプロにまかせて、LP(有限責任組合員)で出資して、諮問委員会で議論するスキームが良いのではないかと考えました。我々はシナジーの部分に注力し投資の実務はプロにお願いしようと。しかし、社内で議論した結果、フジテレビと同じ自前でファンドを運営するモデルに決まり、結局自分たちだけで0からスタートしました。もともと代表の仲尾がグループ会社を0から立ち上げた経験もあり何とかなりましたが、結果自分達だけでやって良かったと思います」

 「もちろん優秀な外部アドバイザーに助けてもらいながらですが、ベンチャー投資に関連するファイナンス、リーガル等の一定の知識がメンバー間でバランスよく身につけることができたので。今、考えてみると、これからCVCやる人たちで言えるとしたら、ファイナンスのプロがいるかいないかは、そこはあまり気にしなくいい。ファイナンスとリーガルの部分は良い外部のパートナーを見つけてアドバイザー契約して随時、話ができるようにしておけば、だいたいは事足ります」

 <プロフィール>
 片岡正光(かたおか・まさみつ)東京放送ホールディングス次世代ビジネス企画室投資戦略部次長兼TBSイノベーション・パートナーズ(合)パートナー。
 1992年慶大卒、東京放送に入社。法人営業、事業開発、経営戦略に従事し、放送事業におけるビジネス領域全般にてキャリアを重ねる。2013年よりTBSイノベーション・パートナーズ(合)を設立しパートナーに就任、ベンチャーファンドを組成しCVC活動をスタートさせ戦略的な投資活動を進めている。早大学大学院商学研究科MBA修了。

(ニュースイッチ編集部、取材協力=トーマツベンチャーサポート)

 ※次回は6月23日(火)に公開予定
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本田知行
本田知行 Honda Tomoyuki バカン
ピーター・ティールが『ゼロ・トゥ・ワン』を読まれたことのある方は、片岡さんの「投資として失敗しないということ。」「会社の重要な資金をファンドという形で預かって運用しているけど、シナジーよりもファンドのパフォーマンス、ファイナンシャルリターンの方を軽くみない。重く考えるということ」という片岡さんの独特な考え方に驚かれたのではないかと思う。私も、CVCの設立・運用などのアドバイザリーに数多く立ち会ってきたが、日本においては小さな成功体験を重ねることが、新たな挑戦を成功へと導く鍵となっている気がする。

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