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「君の名は。」大ヒットの東宝。前前前世からの夢に近づく

小林一三氏は“日本のハリウッド”を目指していた
 東宝が配給するアニメ映画「君の名は。」の興行収入が16日時点で約154億円に達した。東宝は2017年2月期の営業利益予想を従来から140億円引き上げ470億円に上方修正するほどの大ヒット。

 邦画で150億円を超えるのは2008年公開のアニメ映画「崖の上のポニョ」(155億円)以来。洋画も含めても09年公開の米映画「アバター」(同156億円)を超える勢いで、このまま行けば歴代興収ランキングで10位以内に入るのは確実。

 先日はスペインの映画祭のアニメ部門で最優秀長編作品賞を受賞するなど世界でも高く評価されている。東宝の産みの親、小林一三氏は日本のハリウッドを目指していたが、現在の日本映画界は世界に通用する作品が続々と誕生しそうな盛り上がりを見せつつある。

「しょせん、小林一三の掌の上ですわ」



 本業を発展させながら、情報、レジャー、文化というコンセプトを次々に生み出し、グループ全体の付加価値を高める―。情報文化産業の生みの親が小林一三だ。今も根強い人気を誇る「宝塚歌劇団」、日本のハリウッドを目指した「東宝映画」、新聞社を巻き込んだ「夏の高校野球」といったイベントを考案し、ビジネスとして発展・成長させた天才的起業家である。

 阪急電鉄の経営を託された小林は、斬新(ざんしん)なアイデアで都市づくりに挑んだ。その一つが日本初の「ターミナル・デパート構想」。駅を商業施設と一体化させる事業は前例がなく、周囲では反対の声も聞かれたが、「素人だからこそ玄人では気づかない商機が分かる」と譲らず、事業を推進。その後、日本各地に広がった駅ビルを商業施設として活用し、まちづくりの中核に位置づける構想は小林のアイデアである。

 今も高い人気を博す宝塚歌劇団も小林が生み出した。三越少年音楽隊を範に、宝塚新温泉にあった温水プールの跡地利用の一環として考案。温泉場の余興に―との発想から始まった。現在も宝塚歌劇団に受け継がれるモットー「清く・正しく・美しく」は小林の遺訓。「宝塚歌劇の父」という顔も持つ。

 ダイエー創業者で多角的事業家であった中内功が全盛期、こんな話をしている。「わたしなんかがいくら頑張っても、しょせん、小林一三の掌(たなごころ)の上ですわ」。最大の賛辞であろう。
(敬称略)
※「近代日本の産業人」より

日刊工業新聞2015年8月28日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
昨年にニュースイッチを立ち上げて以降、あまり遠出ができず週末はとにかく映画館に足繁く通っている。この1年間は人生で一番映画を観ているのではないか。それも邦画優先で。この2週間で「少女」「グッドモーニングショー」「何者」「永い言い訳」の4本を見た。最近の邦画はストーリーに深さがあると同時に、いろいろな才能が掛け合わさっている良質な作品が多い。例えば、「永い言い訳」は才女・西川美和監督だが、是枝裕和監督が企画協力しているし、「何者」は若き直木賞作家・朝井リョウ原作に音楽プロデューサーの中田ヤスタカ氏が全面的に音楽監修し、若手俳優の勢いを表現している。ハリウッド映画でも「ハドソン川の奇跡」のようにクリント・イーストウッド監督の構成力の光るものもあるが、個人的な好みな断然邦画である。「君の名は。」は小林一三氏の遺訓、「清く・正しく・美しく」を体現した日本らしい作品だ。目を細めているに違いない。

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