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規制強化で新潮流、製紙メーカー非フッ素耐油紙で攻める

規制強化で新潮流、製紙メーカー非フッ素耐油紙で攻める

非フッ素耐油紙「O-hajiki」は4タイプの標準品をそろえ、顧客のニーズに迅速に対応(王子エフテックス)

製紙各社が有機フッ素化合物(PFAS)を含まない食品包装向け耐油紙事業に力を入れている。PFASは人や環境への有害性が指摘されており、欧米が規制を強化したほか、企業でもPFASの使用を排除する動きが相次ぐ。各社はこうした新潮流を商機ととらえ、優れた耐油性能や品質、安全性の高さなどを訴求。非フッ素耐油紙を新たな収益源にする。(下氏香菜子)

【王子エフテックス】ニーズ別4タイプ

食品包装用耐油紙は主にフライドチキンやフライドポテトといった油を多く含む商品向けに使われる。現状はフッ素入りの耐油紙や紙に樹脂をラミネートしたタイプが主流で、ファストフード店やコンビニエンスストアなどがエンドユーザーだ。

王子ホールディングス(HD)子会社の王子エフテックス(東京都中央区)は、欧米のPFAS規制の動向を踏まえ、2023年10月に非フッ素耐油紙「O―hajiki(オハジキ)」を投入した。各種食品包装に適した「一般タイプ」に加え、外から中身が見えにくい「高不透明タイプ」など4タイプを標準品としてそろえる。顧客から寄せられたニーズを分析・類型化し、ラインアップを決めた。3年後に年2000トンの販売を目指す。

実は、同社が非フッ素耐油紙を投入するのは今回で2度目となる。12年に事業参入したが当時は環境よりコストを優先する顧客が多く、販売が伸びなかったため15年に撤退した。ところが近年、PFASの使用を排除する動きが活発化。非フッ素耐油紙の市場が広がると判断し、再参入を決めた。

王子エフテックス営業本部製品開発部部長の仙石秀紀氏は「最初の参入時と比べ事業環境が様変わりした。過去の製品レシピや営業ルートを生かすことができ、顧客への迅速な提案につながった」と手応えをつかむ。

今後、東海工場(静岡県富士市)と江別工場(北海道江別市)の2拠点で全製品を生産し、災害発生時など緊急時にも製品を安定供給できる体制を構築する計画。化学メーカーによる耐油剤の開発動向を見ながら、現行品より厚みのある非フッ素耐油紙の開発も進める方針だ。

【大王製紙】水中で分解・再利用

「FS耐油紙FF」を水の中で撹拌したもの。残留物がなくリサイクル性に優れ、端材などを古紙として再利用できる(大王製紙)

大王製紙は6月、フッ素を含まない耐油剤を使った「FS耐油紙FF」を発売した。同製品はサラダ油、オリーブ油など多様な種類の油に対し、従来のフッ素系耐油紙と同様に紙の裏面に油が染み出さない耐油性能を付加した。標準品の一つに片艶紙を採用し、企業や商品のロゴなどの印刷適性に優れたタイプを用意する。

リサイクル性も追求した。水の中で分解しやすい離解性を持たせ、紙を包装用紙に加工する際に発生する端材などを回収、古紙として再利用できる。エンドユーザーや耐油紙を包装用紙に加工する企業が、廃棄ロスの低減など環境に配慮した製品であることを訴求できる利点がある。

FS耐油紙FFは同社主力工場の一つ、可児工場(岐阜県可児市)で全数を生産する。同工場はもともと多品種に対応できる生産設備を備えており、標準品以外の「顧客の多様なニーズにも応えられる体制になっている」(大王製紙包装用紙部の小林正幸氏)。こうした環境を生かし、高付加価値品の開発などを積極的に進めていく方針だ。

【日本製紙】パピリアクリスピー性保持

日本製紙子会社の日本製紙パピリア(東京都千代田区)も、7月に「パピ・タイユ(FF)」の販売を始めた。紙を構成する各繊維にPFASを含まない耐油剤を付着させることで、紙の隙間を埋めずに耐油性を持たせることに成功。水蒸気が通過しやすい構造により、温かい食品を包装した際に結露が発生しにくく、フライドチキンなど揚げ物の特性であるクリスピー性を保持できるのが特徴だ。5年後に年700トン以上の販売を目指している。

【特種東海】耐油剤の主成分に天然物

特種東海製紙は他社に先駆け「NF耐油紙」を05年に投入した。主成分が天然物の耐油剤を採用し、高い耐油性と通気性を持たせた。生産面では食品に使われることを踏まえ、衛生管理を徹底しているのが特徴だ。

具体的には同製品を生産する三島工場(静岡県長泉町)においてクリーン度の高い専用の抄紙機を使い、異物や微細な塵などの混入を防止。さらに建物の5階で生産することで、工場内への虫の飛来を防いでいる。非フッ素耐油紙の需要拡大を見通し、製品ラインアップの拡充や営業体制の強化を進める。

規制強化、国内でも議論

PFASは自然分解が難しいことから人や環境へのリスクが懸念され、社会問題化している。米国は22年に、欧州は23年にPFASの製造・使用に関する新たな規制を導入したほか、日本でも規制強化を念頭にした議論が始まった。民間では米マクドナルドが25年までに食品包装へのPFASの使用を全世界で禁止する方針。フッ素入りの耐油剤を製造してきた化学メーカーの事業撤退も続いた。

さらに世界的な脱プラスチック化の流れを受け、ポリエチレンなどを塗布したラミネートタイプの包装用紙についても「これからは非フッ素耐油紙に切り替わっていく可能性が高い」(製紙業界幹部)との指摘が上がる。

食品包装向けの耐油紙市場は月600トン程度とされる。印刷用紙などの需要が縮小する中、製紙各社は成長が見込める非フッ素耐油紙の製造・販売を注力すべき事業に位置付ける。食品包装用耐油紙をめぐる事業環境が一変することで、同分野における勢力図が変化する可能性がある。

日刊工業新聞 2024年08月16日

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