膨大な情報、投資家に届かず…効果的なサステナ開示とは?
質改善へ経産省が一石
有価証券報告書、事業報告書、コーポレートガバナンス報告書に統合報告書―。上場企業の情報開示の充実が求められる中、日本の複雑な開示体系に焦点が当たり始めた。環境・社会・企業統治(ESG)投資が活発化し、人的資本などサステナビリティー(持続可能性)情報(サステナ情報)を中心に開示項目は今後も増える見通し。一方、各開示書類の記載内容は重複も多く、企業の負担は増すばかりだ。法制度に合わせ“つぎはぎ”で対応してきた開示方法を見直す機運が高まっている。
「投資家などとの建設的な対話・エンゲージメントを通じて、持続的な企業価値の向上を目指していくためには、企業・投資家など双方にとって効率的かつ効果的な開示のあり方を検討することが必要ではないか」。一石を投じたのは、経済産業省だ。4月末、有識者や投資家、上場企業の担当者らに加え、金融庁や法務省をオブザーバーとした「企業情報開示のあり方に関する懇談会」を設置。現状の開示における課題や今後の方向性について議論した。
主な課題の一つが、開示媒体間での記載内容の重複だ。日本では法令や制度に基づいた制度開示と、企業の自主的な任意開示がある。例えば有価証券報告書は金融商品取引法で、株主総会の招集通知に記載されることの多い事業報告書は会社法で規定されている。
このほか、コーポレートガバナンス報告書は東京証券取引所が提出を求めているものだ。統合報告書やサステナビリティー報告書は任意開示だが、ビジネスモデルといった企業の特色やサステナ情報などを詳細に記載できるため、取り入れている企業の数は年々増加。統合報告書の発行企業は10年前と比べ10倍以上となる1000社を超えた。
近年では有報の記載内容も拡充。2020年3月期からは事業等のリスクなどの記載が必要になったほか、23年3月期からは女性管理職など6項目の人的資本情報の開示が義務化された。このため開示資料のボリュームが増えると同時に、内容が重複。経産省の調べでは、有報の主な記載項目に対し同様の情報を記載していた割合は、事業報告書・計算書類では約9割、事業報告書では約6割だった。
懇談会がまとめた中間報告では「一つの法令などに対して一つの開示書類が対応していることが原因の一つ」と分析。その上で作成する企業だけでなく「投資家など利用者の負担が増え、情報収集の難易度が高まっている」と問題点を指摘した。
経産省が問題視するのは、この点だ。開示情報の多さに対し、PER(株価収益率)といった資本市場における日本の企業価値が伸び悩んでいる。つまり「質」が伴っていない状況にある。
23年度に経産省が実施した委託調査によれば、制度開示と任意開示を合計した日本の開示資料のページ数は、米国よりも約2割、英国よりも約4割多い398ページ。しかし17―18年の統合報告書に対する評価では、米、英、仏、独、韓国などを含む10カ国の平均値である1・82点を下回る1・38点だった。
充実させてきたはずの企業開示が、特に海外を中心とした投資家には届いていない。企業の負担を減らしつつ、真に充実した開示を考える必要がある。