人手不足で受注断念も…「半導体投資」広がる特需、設備・産業ガス活況
国内で半導体投資が活況だ。熊本県に台湾積体電路製造(TSMC)の製造子会社JASM(熊本県菊陽町)が進出。そのほかキオクシアなどのメモリー、ルネサスエレクトロニクスなどのパワー半導体でも投資が相次いでいる。半導体工場の建設には産業ガスや特殊なプラントエンジニアリングのノウハウが欠かせず、関連産業にも好影響が広がっている。(小林健人)
「一部で投資時期の遅れもあるが、受注は活況だ」。産業向けの空調設備工事を手がける新日本空調の二宮幸治執行役員は半導体投資の現状をこう話す。同社は半導体デバイス向けの受注が主で、「投資規模や金額が大きくなっている」(二宮執行役員)という。
同業の大気社も同様で、吉田省吾常務執行役員は「2022年から需要は旺盛だ。半導体デバイスだけでなく、製造装置や材料にも受注を広げたい」と意気込む。同社はJASMの熊本県第1工場のサプライヤーとして参加した。吉田常務執行役員は「大きな工事は技術者の育成にも役立つ」と話す。短納期の要求に応えたことがTSMCに評価されたという。「第2工場の受注も目指す」。
好影響は産業ガスにも広がっている。パワー半導体向けの受注が多い巴商会(東京都大田区)では、コストアップもあり取引金額が従来と比べ1・5倍ほどに増えている。特に今後は炭化ケイ素(SiC)が伸びると見て、需要に合わせ設備増強も検討する。
関東電化工業はメモリー向けのガス供給で強みを持つ。23年はNANDとDRAMともに市況が悪く、各メーカーで減産が相次いだが、23年後半からはDRAM市況が底を抜け「荷動きが良くなってきている」(今尾周二郎精密化学品第2部長)。NANDもキオクシアが減産を続けてきたが、直近では稼働率が戻りつつある。今後市況回復により減産の解除が見込まれ、関東電化工業にとって明るい材料となる。
一方、課題は深刻な人手不足だ。新日本空調の二宮執行役員は「人手不足も相まって一部案件を断らざるを得ないところも出てきている」と話す。大気社の吉田常務執行役員も「JASM第1工場は全国から数百人規模の人員を集めた。人手不足もあり、大型案件を同時にこなすことは難しい」と強調する。活況が続く半導体投資だが、サプライヤー各社の受注状況次第では、スケジュール通り竣工しない案件も増えそうだ。
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