キオクシアHD、事業資金確保でIPOへ前進…不透明な成長戦略どう描くか
NAND、問われる成長戦略
キオクシアホールディングス(HD)の資金繰りにめどがついた。同社は17日、銀行団から約5400億円の融資借り換えと2100億円のコミットメントライン(融資枠)を設定したと発表した。当面の事業資金を確保し、2024年中の新規株式公開(IPO)へ前進する。ただ、データの長期記憶に使うNAND型フラッシュメモリーのシェア獲得競争は激しい。上場後の成長戦略はいまだ不透明感が残る。(小林健人)
台湾の調査会社、トレンドフォースはNAND型フラッシュメモリーの4―6月の価格が前四半期比で13―18%上昇すると予想する。キオクシアは22年から減産を実施してきたが、現在は「稼働率を戻している」(関係者)。
市況回復を受け、キオクシアの24年1―3月期連結決算(国際会計基準)の当期損益は103億円の黒字(前年同期は1309億円の赤字)と、6四半期ぶりの黒字となった。同社の株主である米ベインキャピタルは、もともとIPOでのイグジット(出口戦略)を目指していた。NANDの価格上昇はIPOに向け好材料となる。
課題は、成長戦略をどう描くかだ。選択肢になるのが、一度破談に終わった米ウエスタンデジタル(WD)のメモリー事業との統合。ただ、キオクシアに間接出資する韓国SKハイニックスの同意が得られず、23年10月に交渉が打ち切られた。その後、WDはメモリー事業を24年後半に分離することを発表。キオクシアはIPOを最優先にしながら、統合も検討する。
もう一つ重要なのが設備投資だ。北上工場(岩手県北上市)の建設中の製造棟の稼働時期を当初予定の23年中から25年以降に延期した。旧型の製造装置が多いキオクシアは、新規投資により先端品の製造能力を高める必要がある。
だが、あるサプライヤーは「(これまでも)装置納入は先送りになってきた。フォーキャスト(需要予測)も見えづらい」と話す。別のサプライヤーも「メモリー市況の特性上、仕方ない部分はある」としながら、「スケジュール通り行くかは分からない」と口にする。今後スケジュール通りに工場が稼働するかは、キオクシアの成長に直結する。
他方、人工知能(AI)の普及は追い風だ。英調査会社オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは「AIデータセンター(DC)向けの需要は伸びる。一方、韓国のサムスン電子はシステムを含めた提案ができる。この点のキャッチアップも必要だ」と指摘する。キオクシアは一連の課題に対処し、市場拡大の果実を得られるかが試される。
【関連記事】 半導体製造装置に絶対欠かせない世界的な部品メーカー、日本拠点の秘密