トラック・バス…商用EV、定額制に脚光のワケ
日本は自動車の電動化の遅れが指摘されている。高コストや国産車の車種不足が要因として上がる。そうした課題の解決に挑むのが、スタートアップのeMotion Fleet(東京都新宿区、イーモーションフリート)だ。電気自動車(EV)メーカーではないが、トラックやバスなどの商用車の電動化を提案しており、脱炭素時代のビジネスモデルとして注目されている。(編集委員・松木喬)
東京都が5月に開いたスタートアップ企業を集めたイベント「スシテックトウキョウ」で、イーモーションフリートはグローバルスタートアップ部門のアワードに輝いた。国内外から出展した400社以上のスタートアップ企業の中から、来場した4万人の投票で選出された。
「スクリーンに突然、社名が出たので驚いた」。同社のデニス・イリッチ副社長は当日の光景を思い返す。白木秀司社長も「投資家からビジネスモデルを面白いと言ってもらえた」と手応えを話す。
同社は大手物流会社に商用EVを導入した経験を持つ白木社長とイリッチ副社長が独立し、2023年に設立した。EVメーカーでも、ただの販売会社でもない。バスや貨物運送、タクシー事業者による商用EVの導入や運用を支援するサービス企業だ。
顧客となった事業者は定額の利用料金をイーモーションフリートに支払うことで、商用EVを利用できる。事業者にとっては高額な車両を購入する際の初期費用を抑えられる。さらに同社は、事業者の日常の運行ルートから走行の電力消費量を試算し、過剰投資にならないように車種を選ぶ。国内外や特定のメーカーを問わず、事業者に最適な車両を提供できるのが強みという。
利用料金は、あらかじめ合意した走行距離の範囲なら追加料金は発生しない。しかも、ディーゼル車の運用コストよりも低減できるという。EVの構造上、部品点数が少なく整備費が抑えられるためだ。また、ディーゼル車の燃料費と比べても、EVの電気代は安い。さらに同社は運転データを収集して解析し、車載電池の寿命が延びるように運用を支援する。「EVだから必ずコストが下がるわけでない。稼働率を高めながらも、長寿命化することが我々のノウハウ」(白木社長)と強調する。
また「コストを抑えるためにも、しっかりと事前計画を立てる」(イリッチ副社長)こともこだわり。サービスの導入前、事業者から燃料使用や整備費などのデータ提供を受け、事業所にも行く。駐車場や事業所内の移動経路、受電設備を確認するためだ。
同社がサービスの対象と考える運送事業者は車両50―500台を保有する中堅・中小規模。大手のように車両の脱炭素化に余力のない企業だ。また、乗客が少なく、運転手不足にも直面する地方交通もターゲットとする。バスや運送と用途を分けず、同じ車両で人も荷物も運ぶ「貨客混載」の運用を提案する。車両の稼働率が上がり、地域交通が抱える課題の解決にもつながる。
1月から営業を始めたばかりだが、50社ほどの企業に説明したという。また同月には、再生可能エネルギー事業を展開する自然電力(福岡市中央区)から出資を受けた。
自動車産業調査会社のマークラインズによると、中国では毎月60万―80万台のEVが販売されている。多いと100万台を超える月もあり、世界最大の電動車市場だ。米国は月10万―14万台で推移し、ドイツも多い月には10万台を販売する。一方、日本は月1万台前後が続く。商用EVも同じ傾向と思われる。
自動車に限らず、あらゆる分野の脱炭素化にはコストなどの課題がつきまとう。メーカーによるコスト削減努力も重要だが、普及を阻む課題を解決するビジネスモデルの登場も待たれる。