EV普及の先進地に…愛知・三河、展示施設や販売店続々
サービス体制整い地域に浸透
愛知県三河地方で電気自動車(EV)が普及への兆しを見せている。ガソリンスタンドなどを手がけるマルシメ(愛知県豊橋市、大熊康丈社長)が4月、本社にHWエレクトロ(HWE、東京都江東区)のショールームをオープンし、代理店として販売開始。2023年末、岡崎市に販売店がオープンした中国の比亜迪(BYD)は早くも三河地方で2店目のオープンに動き出し、豊田市には小型EVメーカーが産声を上げた。自動車産業の集積地は今、EV普及の先進地となりつつある。(名古屋・星川博樹)
「脱炭素、高齢者の移動など課題が山積する中、EVがその解決策になる」。マルシメの大熊社長はショールームオープンに際し、関係者にあいさつした。同社が扱うEVは軽トラックタイプなどの小型商業車。消費税込み価格は267万3000円から。小規模事業者や配送業者向けに年間30台の販売をもくろむ。
そのマルシメは4月、指定自動車整備事業者の牧野自動車工業所(静岡県湖西市、牧野正社長)を傘下に収めた。EVの車検需要を取り込むためだ。HWEの代理店となったマルシメだが、真の狙いはEV販売とアフターマーケットへの参入だ。EV時代の到来に備え、地域でワンストップ体制を整える。
一方、首都圏以外では初のショールームとなったHWEは「マルシメの拠点を東海地方の足がかりにしたい」(高橋智行常務執行役員)という。三河が自動車産業のメッカというのは承知の上。「マルシメには年間100台は販売していただきたい」と期待を寄せる。
BYDは23年12月に岡崎市に販売店をオープン。販売台数は明らかにしていないが「順調な立ち上がり」(BYD)という。日本自動車輸入組合(JAIA)のまとめによるとBYDの23年度の新規登録台数は前年度比7・2倍の2026台。愛知県でも攻勢を強め、現在はトヨタグループの有力企業本社がひしめく刈谷市で店舗用地を選定しているという。
またメーカーでは、リーンモビリティ(愛知県豊田市、谷中壮弘社長)が25年に台湾で2人乗りの小型EVを発売する。すでに初号機を完成し、日本では26年に1人乗りEVとして発売する方向で準備を進めている。
こうした動きには自治体も呼応し、豊田市は24年3月に通勤などの徒歩圏でのEV利用の有効性を検討した。豊橋市は24年度の新規事業として「次世代自動車充電インフラ設備設置補助金」制度をスタート。法人または個人の事業者が新たに設置する充電インフラ設備の4分の1(急速充電設備の上限は50万円)を補助する。豊橋市の杉浦康夫副市長は「EV普及には基盤整備が不可欠」と話し、行政への期待に応える姿勢を示した。
EVは自動車メーカーが商品ラインアップを強化し、行政も支援に動き出した。ただ依然として電源問題は解決されておらず、EV普及の速度は上がっているとは言いがたい。「まずはモビリティーの選択肢の一つとして消費者にEVを認知してもらうことが重要」とマルシメの大熊社長は話す。同社は年内にも過疎地域でモニターを募り、EV体験を促す考え。販売店が増え、サービス体制が整うなど、少しずつではあるが、着実にEVは地域社会に浸透しつつある。
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