地上支援車をEVに改造、空港の脱炭素広がる
空港の脱炭素化に向けた取り組みが広がってきた。空港で働く車両の電気自動車(EV)化やバイオ燃料の利用などが始まった。ANAホールディングスのグループ会社は社内で既存車両をEVへ改造して、EV技術を「手の内化」した。航空業界の脱炭素化は持続可能な航空燃料(SAF)や省燃費機材の導入が注目されるが、地上の脱炭素化も工夫しながら進んでいる。(梶原洵子)
全日空モーターサービス(東京都大田区)は29年前に導入したベルトローダー車1台をEVに改造し、夏にも羽田空港(同)で運用開始を目指す。このほど改造車を報道陣に公開した。同車は航空機への手荷物搭載時に使う車両で、航空機地上支援器材(GSE)の一種。エンジンを取り外し、モーターや電池などを搭載した。
2024年度中にさらに2台を改造し、25年度以降は改造コストの低減を図る。
同社はGSEの整備業務を行っており、EV改造の狙いの一つはEVへの理解を深めて今後の整備に生かすことだ。また改造した車両は廃棄予定だったため、「簿価は1円」(辻村和利社長)。改造後は約15年使える上、品質優先で高めの部品を選んでも改造費用は新車購入よりも安く抑えられたという。
「社内にレストアやEV改造を行える環境があり、整備士がそれをできる能力を持つ」(同)と示せたことも収穫だ。今後EV改造の事業化も検討する。
空港で働く車両に新車のEVを多く導入して再生可能エネルギー由来の電力を使えば空港の脱炭素化は進むが、コストがかさむ。特に現在は電動GSEの価格が高騰しており、新車EV導入以外の方法で脱炭素を進める動きが増えている。
成田国際空港は、消防車や給水車などの空港特殊車両に次世代バイオ燃料を使用する実証実験を3月に開始した。廃食油などを原料とするSAFの副産物として生成されるリニューアブルディーゼル(RD)を使う。車両を改造せずに軽油代替として使うことができ、軽油に比べ二酸化炭素(CO2)排出量を90%削減できる。
ANAも羽田空港でGSEへのRDの試験利用を始めた。利用上や制度上の課題を洗い出し、本格導入に向けて準備する。
コロナ禍が収束して航空関連企業の業績は回復しており、脱炭素関連の投資はさらに活発化しそうだ。
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