世界初の実証へ…高砂熱学工業が「月面用水電解装置」開発
各国で月面開発の競争が激化する中で、日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱電機が開発した小型の月着陸実証機「SLIM(スリム)」の月面着陸成功が話題になった。だが他にもさまざまな企業が月でのビジネスを視野に入れている。高砂熱学工業は月面用水電解装置を開発し、世界初の月での水素・酸素生成の実証を目指す。日本企業の持つ技術を生かし、有人月面探査への貢献に向けた取り組みを進める。(飯田真美子)
開発した月面用水電解装置は水を電気分解して水素と酸素を生成する装置で、月面に存在する水資源の有効活用を目指している。装置は縦30センチ×横45センチ×高さ20センチメートルで重量は10キログラム未満という片手でも運べるくらいの軽量な小型サイズでの開発に成功した。小型であっても地球上で使っている装置と同レベルの性能を持ち、月面環境である地上の約6分の1の重力下でも流体を制御できる。ロケット打ち上げ時や月面着陸時の振動・衝撃の試験にも合格し、宇宙で活躍するための規格をそろえた。高砂熱学工業の小島和人社長は「月面での人類の長期滞在につながる第一歩となってほしい」と期待する。
装置は2024年冬に打ち上げ予定のispace(アイスペース)の月着陸船に搭載し、実際に月での水の電気分解を実証する。ただ、今回は月面の水資源を使うのではなく、あらかじめ用意した超純水で実験する予定。使用する超純水は栗田工業が開発した装置で製造しており、月着陸船から装置までオールジャパンで世界初の技術実証に挑戦する。アイスペースの袴田武史最高経営責任者(CEO)は「高砂熱学工業のプロジェクトの成功を後押ししたい」と意気込む。
高砂熱学工業は空調メーカーとしてさまざまな技術を持ち、地上での水電気分解装置や水素製造技術の開発などを進めてきた。そのノウハウを宇宙に生かして月面でのビジネスに乗り出す。ただ非宇宙企業としての挑戦は簡単ではない。振動や耐久性、小型化など地球上よりも規格が厳密で宇宙用の高価な部品を使うため低コスト化が難しいという課題がある。そこでJAXAなどとも共同で研究を進め、月面でも使える水の電気分解装置の開発を進めた。同プロジェクトに関わるJAXAの稲谷芳文名誉教授は「失敗することは次につながること。ただ、失敗しないようにあらかじめすべてのシナリオを想定して対策を講じた」と強調した。
同装置は50年ごろにも月面での本格運用を目標にしており、月面で人類の活動をサポートしたい考えだ。水を電気分解して得られた水素はロケットなどの燃料として活用し、酸素は人の生活に利用できる。米主導の「アルテミス計画」では28年以降にも日本人宇宙飛行士2人が月面に降り立つ機会を与えられるという。人類の月面での活動の本格化が加速する中で、日本の企業の技術を世界に先駆けて実証することが必要だろう。