JAXA「スリム」日本初の月着陸なるか…国内外で加速する月探査の今
月探査に向けた動きが国内外で加速している。政府系の研究機関だけでなく、民間企業も宇宙機を開発して月面着陸を目指している。一方で米宇宙企業アストロボティック・テクノロジーは2月23日に宇宙船「ペレグリン」を月に着陸する予定だったが、断念を示唆した。民間初で、米国ではアポロ計画から50年以上ぶりの月着陸となるはずだった。宇宙は資源豊富で新たなビジネスの場となり得るが、開拓には難しさが伴う。(飯田真美子)
米企業も「民間初」競う
ペレグリンは月面を探査する六つの米航空宇宙局(NASA)の積み荷を搭載。8日(日本時間)に米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地からボーイングとロッキード・マーチンの共同出資会社であるユナイテッド・ローンチ・アライアンスの新型ロケット「バルカン」で打ち上げられ、月へ向かう軌道に入った。だが姿勢制御に関わる推進系に異常があることを発見、燃料漏れが起きたことを確認した。月面への着陸は困難だが、残された燃料がなくなるまで宇宙空間のデータを取得して次機の開発に生かすという。
同船の打ち上げは、NASAが機材などを月面に輸送する事業を民間に委託した「商業月面輸送サービス(CLPS)」を活用。米インテュイティブ・マシーンズもCLPSに採択され、月着陸プロジェクト「IM―1」の月着陸船「ノバC」を2月後半にも打ち上げる予定だ。
次期プロジェクト「IM―2」も24年中に進め、月を目指す宇宙船には日本の宇宙ベンチャーのダイモン(東京都大田区)が開発した月面探査車「YAOKI」を搭載する。小型で軽量、高強度で、転んでも倒れても起き上がれる構造であり、宇宙空間でも耐えうる機能が備わっている。ダイモンの中島紳一郎社長は「自動車メーカーで駆動開発に約20年間携わった。そのノウハウを宇宙で生かしたい」と意気込む。日本の民間による月探査の先駆けになると期待される。
ただ民間が開発した宇宙船が月への着陸に成功した事例はまだない。日本でも民間月面探査プログラム「HAKUTO―R」を進めるispace(アイスペース)が、23年4月に同社が開発した宇宙船で月着陸に挑戦したが着陸直前で失敗した。アイスペースの袴田武史最高経営責任者(CEO)は「失敗したが数多くの知見が得られた。今後も多くの人を巻き込んでミッションを進めたい」と前向きだ。月着陸船の位置を示す高度を認識できなかったことや燃料不足が原因とされている。重力を持つ天体であるからこそ宇宙機が着陸することの難しさもある。
こうした月への課題に約20年間向き合い、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が20日にも月に降り立つ。スリムは月面の「降りたい場所」に降りられる高精度着陸技術を持ち、重力があるにも関わらず100メートル単位で制御できるという。JAXAの坂井真一郎スリムプロジェクトマネージャは「開発期間は20年間と長いが、月への着陸はほんの一瞬。その一瞬のためにしっかり運用したい」と目を輝かせる。成功すれば日本初の月着陸となり、今後の日本の月面開発の促進につながる。