木質由来ケミカル材量産…王子HD、技術・ニーズ見極め協業検討
王子ホールディングス(HD)は木質由来で非可食のケミカル材料を段階的に幅広く生産する。SAF(持続可能な航空燃料)向けバイオエタノールにとどまらず、前工程での糖液や、発酵液中の乳酸を重合させてつくるポリ乳酸などを供給する。現在約20メーカーと情報交換しており、ニーズの把握と課題解決に向けて協業を検討する。数年内の安定的な量産を目指して、生産のスケールアップを図りつつ新事業の体制を整える。(編集委員・山中久仁昭)
王子HDは木質バイオマスの糖液は実験室レベルでのサンプル供給を行っており、2024年度後半には傘下の王子製紙米子工場(鳥取県米子市)に糖液とエタノールの実証設備を稼働させる。
年産能力は糖液が3000トン、エタノールが1000キロリットル(糖液のうち2000トン分を発酵に利用)。3000トン分のパルプを基に、需要や市況を見つつ各素材を柔軟につくり分けたいとしている。
米子工場には工業向け用途などの溶解パルプ、製紙向けパルプの2生産設備がある。このため王子HDは「双方の機能を比較しながら、新事業に適した生産準備を進める」(イノバーション推進本部バイオケミカル研究センター)としている。
SAFは原料を供給するが、自社で生産しない予定。さらに糖を乳酸菌で発酵し、重合させるポリ乳酸は28年度までに実証設備を整備する。年産1000トン以上を見込む。木質由来のポリ乳酸ができれば外販のほか、自社の包装向けフィルムや飲食料品紙容器のラミネートや不織布などに素材として供給できる。
王子HDは東京都内のベンチプラントで、高コストながら糖液づくりに不可欠な酵素の有効活用技術を確立した。パルプを低コストで新素材に変換するため、糖化→分離→酵素の回収→糖化→分離のサイクルを実現する。
バイオエタノールと一口にいうものの、木材パルプ由来のものはサトウキビやトウモロコシなど可食性のものとは違い、食料用とは用途上競合しない。
同社は木質の良さを発揮し、プラスチック削減や脱炭素、資源循環に資する「バイオものづくり」を推進する。一連の事業について「バイオマスからケミカル物質に変換するには高いノウハウが必要。スケールアップも容易ではない」(同)と課題を認識する。
同社は国内約19万ヘクタール、海外約40万ヘクタールの森林を保有し、木材の安定調達のためのサプライチェーン(供給網)を確立している。長年培った原料の調達、適切な処理手法を強みに持続可能性の高いビジネスに意欲をみせている。