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製紙メーカーに減プラの追い風、“紙化”商材拡販へあの手・この手

製紙メーカーに減プラの追い風、“紙化”商材拡販へあの手・この手

日本製紙はチョコレート包装の「紙化」の事例をコンチェと組んで紹介

製紙大手では、木質パルプを原料とする紙製の包装材需要が増えている。自然派チョコレートなど食品向けが多く、プラスチック・フィルムを削減する動きは航空会社やコーヒーチェーンが使う容器などにも広がる。背景には海洋プラスチックのゴミ問題があり、4月に施行されたプラスチック資源循環促進法(プラ新法)が追い風になっている。循環型社会の構築や2050年の脱炭素に向けて、メーカー各社は“紙化”商材の拡販と研究開発にアクセルを踏み込む。(編集委員・山中久仁昭)

【日本製紙】無添加チョコの香りを生かす

「紙ならではの質感や風合いが良い。印刷、デザインと相まって手作り感や柔らかなイメージ、中身の形が感じられる安心感がある」。無添加チョコレート専門店「コンチェ」(静岡市葵区)の田中克典代表は紙包装の魅力をこう語る。

同社の協力を得て日本製紙は4月中旬、都内の食品専門展に参加。カラフルに印刷された紙袋にチョコを詰めて出品し、プラスチックのように鮮度や香りの保持機能、防水機能を持つ包装材「シールドプラス」などをアピールした。

バイオマス由来である原紙(基材)の内側に特殊コーティングを施している。生産過程での二酸化炭素(CO2)排出量はプラスチックより少なく、生分解性を持つ循環型商材だ。加えて顧客はカラープリンターや加熱シール装置があれば容易に印刷や封入できる。

オーダーメードの紙包装材でなくても、多品種少量の品にオリジナル性を打ち出せる。店内で作業できるため、在庫管理やイベント連動の品づくりなどに機動力を発揮できるという。

コンチェのチョコはカカオの原産地の持続的成長を目指したフェアトレード商品で、原産地などで異なる香りを楽しんでほしいと訴える。そもそも自然派志向だから、紙のような素材との親和性が高い。田中代表は「紙でありながら機能性を十二分に確保し、結果的に包装にかかるコストを圧縮でき、ムダになる商品や包装材も削減できた」と語る。

日本製紙白板・包装用紙営業本部の内村元一主席技術調査役は「包装材の商談は社会一般に従来値段ありきだったが、環境性や機能性が重視されるようになってきた」と、顧客の意識の変化を強調する。環境負荷などを除けばプラスチックの利点は少なくなく、紙で全て代替とはなかなかいかない。ただ「一つずつ挑戦して紙でできる事例を増やす」と意欲満々だ。

【王子HD】「非可食性材料」自社開発で低コストへ

王子ホールディングス(HD)では、パルプを原料とする紙包装材が世界最大の食品飲料会社であるネスレグループの商品に広がっている。国内でチョコレート菓子「キットカット」、タイではコーヒー「ネスカフェ」、マレーシアでは粉末麦芽飲料「ミロ」の包装用に採用された。薄さが均一なパルプモールド「パピプレス」は、ANAグループの国際線エコノミークラスで使用する紙コップのふたとして用いられている。

さらに今春、植物由来のポリ乳酸ラミネート紙の開発に成功し、サンプル提供を始めた。紙コップや牛乳パック向けのラミネート紙は従来、紙の基材にプラスチックを溶融・押し出し、積層した複合材で、一般には可燃ゴミとされてきた。石油由来プラスチックをバイオマス素材に転換すれば、環境負荷を低減可能。今回使用したポリ乳酸は外部からの購入品だが、将来、自社産を活用すれば量産のコストメリットが生まれることは間違いない。

こうした現行商品の普及にとどまらず、王子HDは研究開発を強化している。まさに自社でパルプから糖液(ブドウ糖)を作り、発酵によりモノマーを得たのちポリ乳酸など木質バイオプラスチックを合成しようとしている。25年度の実用化を目指し、グループの王子製紙米子工場(鳥取県米子市)への設備投資も検討中。

王子HDは植物由来の「ポリ乳酸ラミネート紙」を開発。サンプルシートを提供し、紙コップなどへの活用を提案する

注目されるのはこれらが石油由来プラスチックの代替とはいえ、従来のトウモロコシ由来などとは異なる「非可食性材料」から作り出そうとしている点だ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、将来、懸念される世界的な食糧危機に対応しようとしている。

これに先立ち王子HDはパルプの成分であるセルロースを、独自の酵素加水分解により糖液に変換する基本技術にめどを付けた。環境省の委託事業の成果であり、今後は実用化に向け精製や合成の条件、コスト面を詰めていく。今ある海外産のバイオマスプラスチックと同等、もしくはそれ以下のコストでの販売や自社商材への活用を目指す。

【三菱製紙】ロッテが採用、「バリコート」拡販

プラスチック削減に向けて他の製紙会社もチャンスをうかがっている。三菱製紙は高いバリアー性を持つ包装用コート紙「バリコート」を拡販する。ロッテが打ち出した新ブランド「Do Cacao chocolate」向けに採用されたほか、今後コーヒーの包装向けなどの需要を狙う。

ロッテの「DO Cacao chocolate」のパッケージに、三菱製紙の包装用コート紙が採用された

ロッテの新ブランドは健康志向で、従来の商品と差別化するため包装材にもこだわった。バリコートは包装会社のカナオカ(東京都台東区)に供給され、そこで印刷して外袋が製作される。紙本来の生分解性や古紙リサイクル性を持つ材料。カナオカは資源の適切な管理・加工に関する国際認証の「FSC CoC認証」を取得した。

三菱製紙は独子会社を通じて、欧州の食品メーカーなどにもバリコートの採用を拡大している。コーヒーのパッケージとして、香りなどを一層封じ込められれば大きな武器となる。同社は「一般にはヒートシール性やバリアー性の付与に当たってフィルムを積層する商材がまだまだ多いが、顧客の環境ニーズに対応していきたい」と意気込んでいる。

【大王製紙】再生可能な包装材をブランド化

大王製紙は今春、プラスチックやフィルムの代替となる紙包装材商品群を「エリプラシリーズ」として、新たにブランド化した。プラスチック代替ではハンガーや弁当容器など、フィルム代替では包装向けのヒートシール性商品、ラベルなどをラインアップする。

エリプラシリーズの紙包装材を用いた高密度厚紙製マドラー「エリプラマドラー」が、ドトールコーヒー(東京都渋谷区)、まるご製パン&Cafe(名古屋市天白区)などに採用され、話題となっている。ドトールコーヒーは運営する店舗で従来使うプラ製から転換し、プラスチックを年5・7トン(20年実績)削減できるとしている。

エリプラマドラーは生分解・再生可能な木材原料を使用。原紙は食品、添加物規格基準に適合し耐水性と耐油性を持っており、長さ140ミリ×幅6ミリ×厚さ0・95ミリメートル、1箱500本入り。月50万本の販売を目指す。

大王製紙の紙製マドラー「エリプラマドラー」は、大手コーヒーチェーンなどで採用されている

22年4月、プラ新法が施行された。プラスチックの過剰な使用と廃棄を改め、再利用を広げるのが狙い。経済協力開発機構(OECD)の報告書によると19年だけで610万トンものプラスチックゴミが海洋などに流出した。日本のプラスチック消費量は年約900万トンだとされており、単純に数字を比較できないものの、日本の取り組みが世界に与える影響は小さくない。

製紙業界は培った経験やノウハウを踏まえ、減プラスチックに向けた顧客や関連事業者との“紙化連携”をますます加速させようとしている。

日刊工業新聞2022年5月6日

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