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製紙各社が植林事業の拡大に乗り出す理由

製紙各社が植林事業の拡大に乗り出す理由

王子HD傘下のブラジル社有林

製紙各社は、2050年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け植林事業の拡大に乗り出す。海外で30年度までに王子ホールディングス(HD)が約20万ヘクタール、日本製紙が約10万ヘクタールの新規植林地の確保を目指す。これにより、海外の森林面積は現状の1・5―2倍程度に増え、投資額は数百億円とみられる。植林のグローバル化を機に製紙業界は森林の二酸化炭素(CO2)吸収・固定に関する議論を深め、政府や国際機関に世界共通の基準、カーボンオフセットのルールづくりを働きかける。

製紙大手は持続可能な原料調達と環境保護のため、国内外に森林を保有。政府の50年脱炭素宣言を受け、CO2吸収・固定源として森林の価値を高める動きを強めている。

王子HDは現在約57万ヘクタールの森林を保有しており、内訳は国内が約19万ヘクタール、海外が約38万ヘクタール。30年度までに海外分で累計約60万ヘクタールに拡大する計画。日本製紙は約17万ヘクタールのうち国内が約9万ヘクタール、海外が約8万ヘクタール。30年度までに海外はアジア中心に約18万ヘクタールにする予定だ。海外で拡大するのは、広大で平坦(へいたん)な土地が多く、新規植林地を確保しやすいためだ。

森林の数値算出の統一基準がないため、CO2の算定方法が異なる。王子HDは社有林で吸収・固定するCO2が排出量削減に寄与するとの考えから、30年度のCO2排出量を18年度比70%超削減する目標を設定した。日本製紙は30年度に13年度比45%の削減で、社有林による吸収・固定分は考慮せず削減量は工場などでの排出分に限る。

社有林と製造現場で排出するCO2の相殺(カーボンオフセット)の考え方は個社独自で国内に閉じた制度活用となっている。各社とも海外植林をCO2削減上のメリットととらえており、政府や国際機関に統一した基準や制度整備を求めていく考えだ。

日刊工業新聞2021年5月28日

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