災害時のSNS、“共助”で生かすために必要なこと
次に備え多様な策の模索必要
会員制交流サイト(SNS)分析は災害対応のプロの間では有効に活用されている。問題は“共助”での活用だ。大規模災害では市民が市民を助ける共助の役割が大きくなる。
「倒壊した建屋を壊しながら中に入って、けが人を引きずり出した。助けは待っても待ってもこなかった」―。スペクティ(東京都千代田区)の村上建治郎社長は振り返る。1995年の阪神・淡路大震災では、救助のプロよりも市民が市民を助け出したケースが圧倒的に多かった。
大規模災害では火災や津波が迫る中で市民自身が救助に当たる場面が発生する。延焼範囲や救助活動に当たれる残り時間などをSNSなどを手がかりに判断することになる。自分の命と家族の命どちらを優先するかといった、究極の選択も迫られる。ここにフェイクが紛れ込む。判断を誤るリスクがある。
能登半島地震ではSNSの救助要請を見た市民が、彼らを助けるよう消防に通報した。救助隊は向かっているのかと何度も問い合わせる例もあった。村上社長は「フェイクそのものよりもフェイクに振り回された市民が現場の負担になってしまった」と説明する。
今後は生成AIで“フェイクの質”が向上すると見込まれる。情報通信研究機構の大竹清敬データ駆動知能システム研究センター長は「判別は難しいだろう。サイバーセキュリティーの現状のようにいたちごっこになる」と懸念する。技術開発は必須だが、技術に投資を続けても改善するのか悪化するのか見通すのは難しい。
ここで災害対策本部で共有されている情報を市民にも提供する方法が浮かぶ。自衛隊や消防、医療、インフラ事業者などの動きが分かれば、足りない部分を市民が補うことも可能だ。だが簡単ではない。例えば自衛隊の派遣場所と人数は国防に直結する。防災科学技術研究所の臼田裕一郎総合防災情報センター長は「災対本部でも厳しく情報管理している。災対本部の情報を開示するよりも、すでにオープンになっている情報を分析し活用する方が近道だろう」と指摘する。
共助を高度化するには技術とコミュニティーとビジネスの複合問題を解く必要がある。コミュニティーで普段から訓練していないと災害時に使えない。AIのスクリーニング効率が悪いと煩わしくなりユーザーが離れる。そして訓練や開発を持続可能にするビジネスモデルが必要になる。
SNS分析はプロユースではビジネスとして成立した。だが共助で成立させるには解くべき課題が山積している。臼田センター長は「防災研究者は被災地にきて何が機能し、機能しないものはなぜか、自らも経験すべきだ」と推奨する。研究室では見えない課題と解法が現場にはあるはずだ。次の大規模災害に備えて多様な共助を模索する必要がある。(小寺貴之が担当しました)