次世代放射光施設「ナノテラス」活用でタイヤ進化…ブリヂストン・住友ゴムの期待と狙い
東北大学青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)内で整備が進む国の次世代放射光施設「ナノテラス」。4月の本格運用開始を前に、タイヤメーカーの間で同施設活用に向けた動きが相次いでいる。ブリヂストンは東北大の現地拠点内に研究開発チームを結成。住友ゴム工業はナノテラス近隣の仙台市青葉区内に開発拠点を新設する。ナノテラスを活用したゴムの高度な解析を通じて、次世代タイヤ技術の開発を目指す。(八家宏太)
ナノテラスはエネルギーの低いX線「軟X線」の放射光施設として世界最高峰となる。国内にある従来施設の約100倍の強度で発生可能な軟X線を用いることで、モノの構造や機能をナノメートル(ナノは10億分の1)レベルで可視化できる。タイヤであれば、従来は不可能だったナノレベルでのゴムの挙動観測が可能になることで、新たな技術や素材の開発、製品性能の向上への貢献が期待されている。
ブリヂストンは2018年にナノテラスの産学連携の有志連合に加入。ナノテラスを研究開発に活用するため、23年12月に東北大の産学共創イノベーション拠点「グリーンクロステック研究センター」内に研究開発チームを結成した。
ナノテラスで得たゴムのビッグデータ(大量データ)を分析。耐摩耗や低燃費といったタイヤの性能を進化させるための材料や、資源循環率を極限まで高めたゴムの開発を進める。
ナノテラスの活用で「分子レベルでのゴムの『見える化』が飛躍的に向上し、よりスケールが小さい高度な原子レベルのゴム・ポリマー設計に進化させていく」(草野亜希夫ブリヂストン常務役員)構え。研究成果をモータースポーツ活動などで実証し、建設・鉱山車両用タイヤや、環境性能と運動性能を両立する商品設計基盤技術「エンライトン」への実装を目指す。
一方、住友ゴム工業はナノテラスの運用開始に合わせて仙台市青葉区の新拠点「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を稼働する。学術と産業による「イノベーションハブ」や、分野・業界の垣根を越えたモノづくり連携の役割に加え、住友ゴムにとっての先進技術開発基地となる。山本悟社長は「技術開発と研究開発のスピードをより上げられるように進めていきたい」と意気込む。
同社はこれまでもエネルギーの高い「硬X線」の大型放射光施設「スプリング8」(兵庫県佐用町)やX線自由電子レーザー施設「SACLA」(同)、大強度陽子加速器施設「J―PARC」(茨城県東海村)などを研究に活用。低燃費タイヤ「エナセーブ」シリーズの燃費性能や耐摩耗性能の向上に加え、独自技術開発の基盤にもなった。
ナノテラスでは高輝度軟X線を活用したリアルタイム計測で、新たなゴム材料の構造情報や化学情報を得ることを見込む。ナノテラス近隣に拠点を構えることで試料の準備などを効率化。放射光による先端計測技術を基盤にタイヤゴムの高性能化を目指す。