街の価値高める、都市部に作られた二つの認定緑地の魅力
環境省は企業や自治体によって生物多様性が守られている緑地を「自然共生サイト」として認定している。122件ある認定地には、企業によって都市部に造られた緑地も少なくない。西武リアルティソリューションズ(東京都豊島区)は入居企業にも好まれる森、東京建物はビジネス街の中心に整備した森が選ばれた。どちらも隣接する施設の価値を高めている。(編集委員・松木喬)
西武リアルティソリューションズ/光の森
旧赤プリ時代の樹木継承
東京ガーデンテラス紀尾井町(東京都千代田区)は、永田町や赤坂、弁慶堀にも隣接する複合施設だ。オフィスやホテル、店舗が入る36階建てビル北側の緑地「光の森」が自然共生サイトに認定された。高さが異なる木々が並び、さまざまな形の葉が広がっている。
東京ガーデンテラス紀尾井町は、赤坂プリンスホテル(2007年、グランドプリンスホテル赤坂に改称)の跡地にできた。建物は建て替えたが、光の森には“赤プリ”時代の樹木75種が残る。開業した16年からの植樹も含めると150種の多様な植物が生息する。
敷地全体の緑化率は約45%あり、公園や水辺、さらには皇居など周辺の緑地とつながり、生物が行き来するエコロジカル・ネットワークを形成している。東京都の絶滅危惧Ⅱ類となっている鳥、ヤマガラも確認された。
東京ガーデンテラス紀尾井町を運営する西武リアルティソリューションズ運営企画部の小松隆雄課長は「歴史も継承した」と、光の森のコンセプトを語る。水辺や小道があり、緩やかな高低差もあるので場所によって景観が変化する。江戸時代には大名屋敷があった土地であり、回遊を楽しむ大名庭園の文化を踏襲した。実際に散策や花の観賞で訪ねる人が多い。
入居企業も緑地に価値を感じている。昼休みに月1回、入居企業の従業員有志による清掃活動が始まった。運営企画部の瀬川千咲子シニアスタッフは「予想以上に参加者が増え、人数制限をお願いするようになった」と明かす。緑地を介して近隣の中学校など地域との交流も増えており、「紀尾井町の名前を発信したい」(小松課長)と街のブランド力のさらなる向上にもつなげる。
東京建物/大手町の森
ビジネス街で生態系保全
日本最大のビジネス街である東京・大手町にも、自然共生サイトの緑地がある。みずほフィナンシャルグループが入居する大手町タワー(東京都千代田区)の敷地にある「大手町の森」だ。高い木も低い木もあり、暗くて湿度を感じる空間と光が注ぐ場所がある。開発した東京建物ビルマネジメント第一部の高橋優希課長代理は「人が心地よく生き物が棲(す)みやすい、自然で郷土の森を目指した」とコンセプトを説明する。
建設前、専門家を交えて森の設計を検討。千葉県君津市の土地にコンクリートで地盤を造って土を載せ、実際に植物を植えて3年をかけて検証し、「本物の森とは何かを追求した」(高橋課長代理)という。
13年に大手町タワーの開業とともに大手町の森も完成。その後も森は変化している。太くなった樹木があれば、細い木もある。あえて木が密集する場所を設け、競争に負ける木をつくった。さらに樹齢が異なる樹木を混在させて自然の森を再現した。
環境への適応をめぐる生存競争も起きている。草花を含めると13年に117種が生息していた植物は1年後に301種に増加。その後、減少に転じて21年には208種となった。森の成長によって日陰が増え、日照を好む植物が減ったためだ。
昆虫は129種が確認された。周辺の公園に比べて、バッタやナナフシが多く、日陰が多い大手町の森の環境が影響としているようだ。鳥類も樹木を好むヒヨドリやメジロが多く、地域の生物多様性向上に貢献している。
現在、情報発信に力を入れており、大手町の森を人の交流が生まれる場所にする。ビジネス街にある森として「日本一の都市の森を目指す」(同)と意気込む。
自然共生サイトは、23年度に環境省が創設した。海と陸の30%を生物多様性の保全地域にする国際目標があり、同省は民有地を含めて達成するため制度化した。