絶滅危惧種のゼニタナゴ放流、NECが企業緑地で生物多様性保全
NECと地域の自然保護団体などが、同社の我孫子事業場(千葉県我孫子市)内の池に関東で絶滅したとされるゼニタナゴを放流した。企業が管理する敷地で絶滅危惧種を野生復帰させる試みだ。繁殖に成功すると工場の緑地が生物多様性保全に優れた場所という証明となる。
我孫子事業場は建物の裏に林が広がる。木々に囲まれた細い道を抜けると湧き水でできた通称「四ツ池」がある。工場と思えないほど静かな池に子供たちがゼニタナゴ約100匹を放流した。
ゼニタナゴは日本固有の淡水魚。関東以北に分布していたが、水質の悪化や外来魚にすみかを奪われて減少し、現在は東北の一部に生息する。環境省は絶滅危惧種に分類し、岩手県は天然記念物に指定している。また、福島県は条例で捕獲や飼育を禁止した。
関東でも姿を消したが、滋賀県立琵琶湖博物館(草津市)が1989年に霞ケ浦(茨城県)で採取したゼニタナゴを保護してきた。この“関東タイプ”の子孫を、地域の自然保護に取り組む手賀沼水生生物研究会とNECが協力し、我孫子事業場の小さな人工池で飼育してきた。今回、人工池で繁殖したゼニタナゴを四ツ池に放流し、野生復帰に挑む。
ゼニタナゴは秋、二枚貝に卵を産む。全国のタナゴ類の魚に精通する会社員の熊谷正裕さんによると、無事にふ化すると来春には四ツ池で稚魚を確認できる。ただし「産卵しやすい貝が多いなど、環境が整わないと生き残るのは難しい」という。
ゼニタナゴの繁殖に期待がかかる四ツ池は、NECが事業場を開所する前からある。以前の調査で、絶滅危惧種であるオオモノサシトンボの生息地であることも分かった。一方で外来種のブルーギルやアメリカザリガニも確認されたため、NECは専門家とともに駆除してきた。
企業の敷地は人によって管理されおり、天敵が侵入する恐れが少なく、希少種を保護しやすい環境にある。希少種が繁殖すると自然を守って操業している証明となり、企業も生態系保全の成果として発信しやすい。9月、四ツ池は環境省が民間の緑地を生物多様性保全地域に認定する「自然共生サイト」制度の試行事業で「認定相当」に選ばれた。