外国人材は「頼みの綱」…選ばれる企業になれるか、中小の経営課題に
中小企業にとって外国人材の重要度が増している。生産年齢人口の減少という構造的問題も背景に人材不足が深刻化する中、外国人材は頼みの綱だ。また外国人技能実習制度が、長期就労の道を開く形で新制度に切り替わる見通しで制度面でも受け入れは転機にある。一方、外国人材は国内、近隣国の企業同士で奪い合いになるとみられる。魅力ある環境を整え、外国人材に「選ばれる企業」になれるかが、中小の経営力を左右する時代に入る。(特別取材班)
長期就労・転職に道、「技能実習」刷新
巨大な鉄の塊が組み立てられ、トレーラーで運び出されていく。造船業で栄えた広島県尾道市因島の北部に位置する因島鉄工業団地。入居13社の大半が船体ブロック製造をなりわいとする。カギになる技能は溶接だが、日本人技能者の不足は深刻。多くの外国人従業員が働いている。
因島鉄工(広島県尾道市、宮地秀樹社長)もそうした1社。造船事業部の従業員約80人のうち、外国人が半数を占める。うち技能実習生が7人、特定技能1号合格者が30人、同2号合格者が3人。現場を訪れるとベトナム出身で2号取得者のファン・ヴァン・マイン氏が、分厚い鉄板が立て込んだ中で身をかがめて溶接作業に取り組んでいた。同社の福島侑海外事業担当課長は「今や尾道市の造船業全体が、外国人なくしては成り立たない」と話す。
全国的に中小企業の人手不足は深刻だ。中小企業基盤整備機構の調査(2023年11月実施、回答1560人)では人手不足について31・6%が深刻と答え、63・4%が重要な問題または問題になり得る回答した。15―64歳の生産年齢人口は減少が続き、50年には現行比3割弱減の5275万人となる試算もあり問題は長期にわたる。
大きな助けとなるのが外国人材だ。ゼロ精工(兵庫県尼崎市、佐藤雅弘社長)が外国人材採用を始めたきっかけは、社員を募集しても日本人の応募がなかったため。現在、外国人材は8人で従業員の約10%を占める。「休日出勤もしてもらえるありがたい存在」と佐藤社長は目を細める。
外国人技能実習制度の見直し議論が進む。政府の有識者会議は23年11月、現行制度を廃止して新制度の創設を提言する最終報告書をまとめて報告した。新制度は外国人の育成と就労の二つを目的とし、人材確保に力点を置く。要諦は3年間の育成期間終了後に別の在留資格である「特定技能1号」への移行を促す点。企業にとってはより長期的な視点での外国人材の確保・活用につながる。政府は具体的な制度設計の議論を進め、通常国会に関連法案を提出する見込み。
外国人材の受け入れニーズは高まる。しかし中小が思惑通りに外国人材を確保していけるかは予断を許さない。同実習制度に替わる新制度の最終報告は、従来は原則禁止だった転職を認めるよう提言したことも肝。就労先の自由度を高め外国人材が安心して働けるようにする目的だが、中小からは「賃金が良い東京(など都市部)に行きたくなるだろう。簡単に辞められては地方企業は大変」(JPC〈新潟県長岡市〉の吉原誠社長)、「育てた社員が会社を去るのは痛手」(オガワ機工〈福岡県久留米市〉の伊藤秀典社長)、「外国人採用を見直したほうがいいかもしれない」(三河工業〈愛知県岡崎市〉の山元敦史社長)と懸念の声が上がる。
またお隣の中国、韓国も人口減が見込まれており、国内企業だけでなく海外企業とも外国人材を取り合う展開になるとみられる。技能実習生、高度人材を問わず中小が外国人材を引き寄せ、長期にわたりつなぎ留めるためには、企業としての魅力を高める取り組みが欠かせない。
役割・機会提供など公平に
「ここで彼らが技術を自分のものにしたことをうれしく思う。働く環境が充実しているからこその笑顔だ」。23年12月、ベトナムのファム・ミン・チン首相が、自動車内装部品などを手がける柴田合成(群馬県甘楽町、斎藤篤社長)を視察した。2人のベトナム人技術者から工場無人化の取り組みなどについて説明を受け称賛した。
同社は国内従業員150人のうち30人がベトナム人材だ。給与・勤務時間などの待遇は全て同じ。昇進も公平。柴田洋会長は「2人は23年夏、最年少で係長になった。力を合わせて成長していきたい」と笑顔を見せる。
外国人材とどう共栄関係を築いていくか。実績を積み重ねてきた中小に共通するのが、待遇はもとより、役割や機会の提供などでの公平性の確保だ。
樹脂ボトル製造・販売の佐原化学工業(大阪府八尾市、桑畑康司社長)は外国人技能実習生に品物の検品や装置の稼働など、さまざまな役割を割り当てている。桑畑社長は「やる気がある人に機会を与えることが重要」と強調する。
精密切削加工を主業務とする佐藤精機(兵庫県姫路市、佐藤慎介社長)では、13年から10年間にわたって外国人材を採用してきた。現在は全社員44人のうち、3人がベトナム人。工作機械加工のエンジニアとして日本人社員と同様にプログラム作成や加工を担う。佐藤社長は「人手不足の解決だけではなく、イノベーションを外国人材に求めている」と期待する。
職場環境・設備の改善に腐心
外国人材受け入れでは、言葉の問題が実務上の課題となる。切削加工の湯本電機(大阪市東成区、湯本秀逸社長)ではベトナム人やミャンマー人、中国人が活躍する。湯本社長は「言葉が最大の障壁」と言い切る。「来日後3年以内に日本語能力試験の『N3(日常会話レベル)』を取るよう促す」という。
工場自動化(FA)設備など手がける第一施設工業(福岡県新宮町、松村幸司社長)も外国人材に日本語検定受検を奨励する。目標達成で報奨金を出す制度を用意しモチベーション向上を図る。
採用した外国人材に長期にわたり就労してもらう環境づくりも重要だ。
鋳造品製造の真岡製作所(栃木県真岡市、佐藤克彦社長)は人材育成の仕組みを独自に整備。大卒者の高度外国人材や特定技能の在留資格を持つ人材が、技能実習生を育成し特定技能に引き上げる。現在、従業員約280人のうち約3分の1をベトナム人が占める。鈴木芳江執行役員は「優秀な人材として育成し、長く会社にいてもらいたい」とし「特定技能に移行するために必要となる資格試験の支援をしていく」と話す。
設備面の充実を図る取り組みもある。金型製造のエムエス製作所(愛知県清須市、迫田邦裕社長)は工場内にイスラム教の社員向けに祈祷(きとう)室を設け、体を清めるためのシャワーも完備する。
生活面のサポートに力を入れる中小も多い。金属鋼板加工のコンチネンタル(富山市、岡田俊哉社長)は、外国人材向けに里帰りを想定した1カ月近い休暇制度(年1回)を設けるなど福利厚生も手厚い。機械部品加工の鬼頭精器製作所(愛知県豊田市、鬼頭明孝社長)は、永住権を取得した外国人材の住宅購入を支援する。