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和歌山発「宇宙宅配便」…スペースワンの小型ロケット輸送へ

和歌山発「宇宙宅配便」…スペースワンの小型ロケット輸送へ

カイロスロケット発射イメージ(スペースワン提供)

宇宙に人工衛星や探査機、物資を運ぶ輸送技術の開発は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)だけでなく民間の動きも活発だ。キヤノン電子などが出資するスペースワン(東京都港区、豊田正和社長)は、小型ロケットを使ったサービスの展開を目指す。和歌山県串本町に民間初のロケット発射場「スペースポート紀伊」を設置し、打ち上げの準備は整いつつある。新たな国内の宇宙輸送手段が増えると期待される。(飯田真美子)

日本にはJAXAを中心に大型の探査機や人工衛星を運ぶ大型基幹ロケットや、超小型の人工衛星などを輸送する固体燃料ロケットがある。これらのロケットは安心・安全性が高いが、年に数回しか打ち上げが実施されず打ち上げ費用が高いという欠点がある。そのため、日本の大学や企業が作った衛星などは米スペースXをはじめとした海外の宇宙輸送企業に打ち上げを依頼している。

またJAXAなどが開発した大型基幹ロケット「H3」や固体燃料ロケット「イプシロン」は打ち上げに失敗しており、原因究明や対策の検討段階であるため稼働できない。現状で打ち上げ可能な政府系ロケットは大型基幹ロケット「H2A」のみであり、打ち上げ手段が限られた状況にある。政府だけに頼らずに民間が宇宙輸送サービスを実施し、国内で安定的に打ち上げができる仕組みが求められる。

宇宙輸送サービスの提供を目指す宇宙ベンチャーは増えており、スペースワンもその一つだ。ユーザーの小型衛星を契約から12カ月以内、受領から4日以内に宇宙に運ぶ「宇宙宅配便」を事業化する方針。スペースポート紀伊を設置し、小型ロケット「カイロス」を開発中。カイロスはギリシャ神話の時間の神から名付け、世界で最も頻繁に契約から最短でロケットを打ち上げることを目指している。2020年代中にH3の3倍以上となる年20回ほど打ち上げたい考えだ。

スペースポート紀伊の打ち上げ射点

同社にはキヤノン電子やIHIエアロスペース、清水建設など多数の企業が出資しており、早急な開発が見込まれる。ただ、キヤノン電子の酒巻久会長は「部品などの物資調達は新参者より古株を優先する傾向にある」と指摘しており、宇宙ビジネスを確立するには実績が重要であると強調している。さらにロシアのウクライナ侵攻などの影響が産業界でも見られるように、宇宙分野にも拡大している。23年夏にもカイロス初号機を打ち上げる予定だったが、部品調達の遅れにより開発が進まず、4回目の延期が発表された。

和歌山県が算出したスペースポート紀伊での打ち上げ事業などの経済効果は、10年間で約670億円に上ると見込んでいる。打ち上げを楽しみにしてる宇宙ファンの見学者を県外から呼び込むための策も練られており、JR西日本の特急くろしお「ロケットカイロス号」の運行が始まるなどの動きが見られる。宇宙開発を通じて地域の活性化につながると期待される。

日刊工業新聞 2023年08月28日

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