「学術会議」次の形は?、課題山積みで法人化へ正念場
外国人会員の選考・財源に課題
日本学術会議が国から独立した組織となるため特殊法人化への検討が始まる。2023年末に内閣府の有識者懇談会が独立を推奨する報告をまとめ、政府は法整備を進める。これを受け、学術会議執行部は法人化後の独立性と自律性を確保するため詳細設計に協力していく構えだ。外国人会員の選考や財源など、課題は山積みで検討に年単位の時間がかかるとされる。24年は次の学術会議を形作る年になる。(小寺貴之)
「法人化か国への存置かの議論に拘泥せず、懸念を解消するための継続的な協議を求めていく」―。政府の法人化案が正式に決まり、光石衛学術会議会長は協議の継続を要望した。法人化自体には反対せず、法人化案の懸念点を払拭するための協議を求める。実質的に法人化を受け入れ、制度の詳細設計で独立性や自律性を担保したい考えだ。
政府への大反発も想定されたため、関係者はほっと胸をなで下ろした。内閣府の松村祥史特命担当相は「制度の具体化について学術会議の意見を十分聞きながら丁寧な検討を進めていくことが(学術会議と政府との)信頼回復につながる」と説明する。
課題は山積みだ。光石会長は「具体化するほど検討項目が出てくる。年単位の時間がかかるだろう」と指摘する。その一つが外国人会員の選考だ。外国人会員は内閣府が独立を推す根拠とした項目だ。多様性が増すためには外国人を会員にする必要があり、学術会議が国の機関だと外国人を受け入れられないという論法だった。
学術会議は国際アドバイザリーボードを設けて意見を取り入れると主張した。だが、内閣府はより高いレベルの多様性を目指すには、正会員として外国人を受け入れる必要があるとした。学術会議の運営や国への助言に深く関わることになる。
だが人選が難しい。経済安全保障などの観点からは、同志国の仮想敵国などから正会員に受け入れるのは難しい。有識者懇談会の岸輝雄座長(元学術会議副会長)は「(特定の国は)シャットアウトも必要になる」と指摘する。中国やロシアなど、日本の置かれた状況に配慮しながら、研究業績や国際性を兼ね備えた人材を選ぶことになる。
政府は同時に会員の選考過程を透明化し説明するよう求めてきた。「研究業績は優れていても、特定の国からは受け入れられないと説明できるのか」「説明するなら法律などの根拠が必要ではないのか」「その上で学術としての多様性は担保できるのか」といった課題が浮上している。内閣府は「学術会議自身が会員を選ぶために独立する。会長が決めることだ」と突き放す。
財源も課題だ。岸座長は「現在の予算はナショナル・アカデミーの活動にまったく足りていない」と指摘する。そのため国以外からも資金を集める必要がある。ただ、大口の寄付が集まったとしても利益相反や出資者からの独立性の担保が問題になる。
また内閣府が求める選考助言委員会や監事、評価委員会の設置のような運営に関わる仕組みを、新たな出資者に同じ論法で求められるとも限らない。内閣府は「学術会議のリスク管理として判断すること」と説明する。将来、リスク管理に失敗しても介入を防ぐ法的根拠などを用意する必要がある。これらは独立に向けて政府が開けた穴を慎重に閉じる作業だ。
光石会長は「戦いはこれから。だが前からも後ろからも矢が飛んでくる」とこぼす。学術会議会員には「政府が敷いたレールの上で条件闘争している」と執行部を批判する声もある。多様な会員をまとめ、よりよいアカデミーを作ることができるか正念場になる。