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「カムリ」「MSJ」「ワゴン販売」…2023年に終焉迎えた製品・サービスを振り返る

「カムリ」「MSJ」「ワゴン販売」…2023年に終焉迎えた製品・サービスを振り返る

トヨタの中型セダン、10代目「カムリ」

2023年は数々の製品やサービスが終焉(しゅうえん)を迎えた。戦略事業からの撤退や歴史ある設備・施設の閉鎖もあった。消費者の嗜好(しこう)変化、老朽化、人手不足など理由はさまざまだが、人々に強いインパクトを与えた製品や長く愛されたサービス、難事業に取り組んだ挑戦の軌跡は日本の産業発展のための糧となる。

トヨタ・顧客ニーズなど判断

トヨタ自動車は中型セダン「カムリ」をはじめ、複数車種の国内生産を終了した。ボディーサイズやパワートレーン(駆動装置)、デザインが顧客ニーズなどに適しているのかを総合的に判断したという。

カムリのほかにワゴン型軽自動車「ピクシスジョイ」、小型スポーツ多目的車(SUV)「C―HR」、小型車「パッソ」の国内生産をそれぞれ終了した。より競争力のある車種や分野にリソース(資源)を集中し、事業の継続的な成長につなげる狙いもある。

ホンダ・距離と価格見合わず

ホンダ初となる量産型EV「ホンダ e」

ホンダは12月、同社初の量産型電気自動車(EV)「ホンダ e(イー)」を24年1月で生産終了すると発表した。在庫がなくなり次第、販売を終える。環境規制の高まりを受け、20年に欧州と国内に投入した。9月末までの累計販売は約1万2000台。環境性能の高い電動車を象徴するモデルのため、上位グレードの航続距離(WLTCモード)は259キロメートルながら消費税込み価格は495万円と高めの設定で、販売は伸びなかった。

マツダは12月下旬に、3列シートSUV(スポーツ多目的車)「CX―8」を生産終了する。事実上の後継車として、24年に3列SUV「CX―80」を日本や欧州で発売する。

携帯端末・開発、第2弾に続かず

バルミューダのスマートフォン「BALMUDA Phone」

バルミューダは5月に携帯端末事業からの撤退を発表した。21年5月に携帯端末事業に参入し、同11月に第1弾製品となる「バルミューダフォン」を発売したが、原材料価格の上昇や為替の円安進行を背景に次期モデルの開発が困難になり終了を決めた。22年12月期の同事業の売上高は、前期比69・5%減の約8億6800万円にとどまっていた。

バルミューダのみならず、23年のスマートフォンメーカーを取り巻く環境は厳しかった。富士通の携帯端末事業を引き継いだFCNT(神奈川県大和市)などは、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請。中国レノボグループがFCNTから同事業を承継した。京セラは個人向けスマホ事業の縮小を決めた。

商業施設・“渋谷の顔”も老朽化に抗えず

東急百貨店本店の跡地には、地上36階建て複合施設が建設予定

東京・渋谷で55年にわたり営業してきた「東急百貨店本店」が1月31日に閉店した。同本店(地上9階・地下3階建て)は1967年に渋谷で“街の顔”として開業。55年を経て建物の老朽化もあり閉店を決めた。跡地では地上36階建ての複合施設の建設が計画されており2027年の完成予定。

名古屋駅周辺の風景も変わる。名古屋鉄道グループのメルサ(名古屋市中区)は3月、1972年に開業した商業ビル「名鉄レジャック」(同中村区)の営業を終了。飲食店やボウリング場、サウナが入居して人気を集めていたが、建物の老朽化で解体する。名鉄の高崎裕樹社長は3月「楽しいエンターテインメントが集積したビルだ」と懐かしんだ。名古屋駅周辺は再開発機運が高まっており、名鉄などは新たな高層ビルを開発する計画に取り組んでいる。

鉄鋼・JFE京浜高炉など休止

JFE京浜地区の高炉は9月半ばに休止された

鉄鋼の余剰生産能力をそぎ落とすための構造改革が進んだ。9月にはJFEスチールが京浜地区(川崎市川崎区)の高炉など上工程と熱延設備を、日本製鉄は呉地区(広島県呉市)の全生産設備をそれぞれ休止した。

JFE京浜は同社前身の一つ、旧日本鋼管(NKK)発祥の地で、約100年続いた鉄づくりの「火」を落とした。高炉休止により同社の粗鋼生産能力は約13%削減された。

「やりきれなさもあるが、新しい都市型製鉄所として鋼材供給を続ける」(幹部)。同社は跡地の利用構想を策定し、脱炭素化に資する水素・アンモニア基地や「空飛ぶクルマ」実証の場所といったアイデアを提示した。

一方の日鉄。呉は同社統合前の旧日新製鋼のシンボルだった。従業員の再就職先の確保、協力会社の業容転換はまだ続く。

三菱重工・MSJ、証明取得難航

MSJの仕事を受注予定の中小企業も多かった(20年3月に飛行した試験機)

三菱重工業は2月、小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発を中止し、撤退した。1973年生産終了の「YS11」以来の国産旅客機と期待され、2008年に旧三菱リージョナルジェット(MRJ)の開発を始めた。だが納入時期を6度延期し、20年に開発を凍結していた。

米ボーイング機の部品は製造するが、完成機の知見がなく、航空当局の安全性証明である型式証明(TC)の取得に苦戦した。取得には今後数千億円の費用がかかると推測したほか、参入を狙う小型機市場が不透明とみて、撤退を決めた。

今後の焦点はMSJの開発経験を遺産にできるかだ。開発人員は防衛事業に転籍し、日英伊3カ国による次期戦闘機共同開発に携わっている。35年の引き渡しを目指す重要案件にMSJの経験を生かせるかが問われる。

鉄道・ワゴン販売、人足りず

JR東海は10月末、東海道新幹線の車内のワゴン販売を終えた

JR東海は10月末、東海道新幹線で提供していたワゴン車内販売サービスを終えた。かつてはコーヒーやアイスクリームなどを車内を巡って販売していた。販売が減少傾向にあった上、人手不足の問題もあった。代わりにグリーン車では乗客がスマホなどから座席で食事や飲み物を注文できるサービスを導入したり、駅ホーム上の自動販売機を拡充したりしている。

ほかに鉄道分野では京浜急行電鉄が11月25日のダイヤ改正で、約13年間利用していた「エアポート急行」の名称を「急行」に変更した。エアポート急行の表示には飛行機マークがついており、これを見た海外からの旅行者などが羽田空港行きの列車と間違えて乗ってしまうことを防ぐため。停車駅の変更はない。同社は11月22―24日に「さようならエアポート急行」のヘッドマークを取り付けた列車を運行し、別れを惜しんだ。

日刊工業新聞 2023年12月27日

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