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新光電気を売却する富士通、“経営改革”新段階の課題

新光電気を売却する富士通、“経営改革”新段階の課題

経済安全保障の問題も影響し、新光電気の売却交渉は長引いていた

富士通が進める経営改革が新たなステージに入る。連結子会社の新光電気工業を売却する契約を産業革新投資機構(JIC)と結んだ。株式公開買い付け(TOB)などを経て、新光電気の売却が完了するのは2025年1―3月になる見込み。富士通の業績は堅調ではあるが、23年度の売上高見通しが2300億円の新光電気が連結から外れることで、25年度を最終年度とする3カ年の中期経営計画の見直しが俎上(そじょう)に乗りそうだ。(編集委員・斉藤実)

現中計では25年度に連結売上高4兆2000億円(22年度実績3兆7137億円)、調整後営業利益5000億円(同3208億円)を目標に掲げている。新光電気が連結から外れることで、トップライン(売上高)の目減りは避けられず、連結売上高4兆円の大台乗せに黄信号がともる。

ただ、利益率は逆に高まる見込み。中核事業に位置付けるサービスソリューションは25年度に調整後営業利益率15%(22年度実績8%)を目標に据えており、新光電気の売却により、中核事業へのシフトによる成長戦略はより鮮明となる。

新光電気の売却交渉が長引いたことについて、富士通の時田隆仁社長は「(交渉の)相手先や当社以外の新光の株主もいるため、当社の都合だけでは推し進められなかった。経済安全保障の問題も大きく影響したのは確かだ」と打ち明ける。

時田富士通社長は新光電気売却に関連して「半導体の供給網の安全性が確保されるのであれば歓迎すべきことだ」と述べた

また、「(新光電気などの)デバイス部門を非コア事業に位置付けたのは昨日、今日の話ではない」と指摘。加えて「(新光電気に)積極的な投資を振り向けられない中で当社グループ内に抱えていることが、事業として考えたときにどうなのか。新光電気を応援する企業が当社以外にあり、また経済安全保障の観点も含めて半導体のサプライチェーン(供給網)の安全性が確保されるのであれば歓迎すべきことだ」と述べた。

新光電気の買収に向け、JICは大日本印刷(DNP)と三井化学と共同で24年8月下旬にTOBを始める。想定通りに進めば、その後、富士通は新光電気が実施する自己株式の取得に応じる形で、富士通が持つ新光電気の全株式(発行済み株式の50・02%)を売却する。譲渡価額は2851億円となり、25年3月期の連結決算で株式売却益として約1500億円を計上する予定だ。

買収完了後の新光電気への出資比率はJICが80%、DNPが15%、三井化学が5%の予定。買収額は総額7000億円規模になる見通し。新光電気は24年度中に上場廃止となる。

富士通の中計の見直しは今後の検討課題だが、新光電気のほか、富士通ゼネラルとFDKの上場2社の売却方針も表明しており、今後の動向が注目される。


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日刊工業新聞 2023年12月19日

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