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民間主導で初、富士通・理研が完成させた量子コンピューター2号機の全容

民間主導で初、富士通・理研が完成させた量子コンピューター2号機の全容

理研RQC―富士通連携センターで開発した超伝導量子コンピューター

ハイブリッド基盤実装

国産第2号の量子マシンの実機が完成―。富士通理化学研究所は、理研が3月に公開した国産初号機となる64量子ビット超伝導量子コンピューターの開発ノウハウを土台に、新たな64量子ビットの量子コンピューターを開発したと5日発表し、実機を披露した。既存の古典計算機上で動作する40量子ビットの量子シミュレーターと、量子コンピューターをシームレスに連携するハイブリッド基盤を実装した。今後は産業界を中心に用途開発の共同研究を進める。(編集委員・斉藤実)

今回は国産機としては2番目だが、「理研RQC―富士通連携センター」をベースに、民間主導で開発した初の国産機となる。理研の中村泰信量子コンピュータ研究センター長は「1号機と2号機はハードウエア・ソフトウエア開発で両輪となる」とそれぞれの役割を示唆。また、公募していた1号機の愛称が「叡(えい、英語表記はA)」に決まったことも明らかにした。

富士通で最高技術責任者(CTO)を務めるヴィヴェック・マハジャン執行役員は「今回は量子と古典が共存できるソフト層(基盤)に特徴があり、化学計算や金融アルゴリズム(計算手順)などのアプリケーション開発を加速できる」とハイブリッド仕様に込めた意欲を語った。

また、富士通研究所の佐藤信太郎量子研究所長は「従来のアルゴリズムを上回る精度で量子化学計算を可能にするハイブリッド量子アルゴリズムの開発に成功した」と研究開発の肝を紹介。技術的な優位性について「ノイズによるエラーが前提の量子コンピューターを用いた計算結果と、ノイズを含まないシミュレーションによる計算結果の比較なども容易だ」と言及した。

量子コンピューターの演算機能の中心を担う64量子ビット集積回路チップ

2号機の心臓部となる量子チップは1号機と同様の垂直配線パッケージを採用。NTTの協力も得て、同社が構築した量子ビット制御ソフトを用いて量子ビットの高精度な制御を実現した。

また、量子計算の一部を量子シミュレーターが担うハイブリッド型の量子アルゴリズムを水素原子12個からなる水素鎖「H12」のエネルギー計算に適用し、ノイズ影響を軽減する量子計算補正技術と組み合わせたところ、既存の古典アルゴリズムを上回る精度でエネルギー計算が実行できることを世界で初めて確認したという。

量子コンピューティング基盤には米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)仕様のクラウドアーキテクチャー(設計概念)を実装。応用プログラムインターフェース(API)経由でのアクセス環境を整え、クラウド上に公開した。

富士通は量子アプリの開発で、富士フイルム東京エレクトロン、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー(東京都千代田区)、三菱ケミカルグループとそれぞれ共同研究を行っている。新開発の量子基盤の活用についても、並行して取り組む考え。一連の施策により、国産機の商用化への期待が高まりそうだ。


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日刊工業新聞 2023年10月06日

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