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世界出荷 “最低水準”…事業撤退・縮小相次ぐスマホ端末市場、生き残りの道はどこか

世界出荷 “最低水準”…事業撤退・縮小相次ぐスマホ端末市場、生き残りの道はどこか

モトローラの折り畳み式スマホ「レーザー 40 ウルトラ」。同社は新製品を相次ぎ投入し日本市場で存在感を高めている

スマートフォン市場の成熟化が鮮明だ。2023年の世界出荷は過去10年間で最低になる見込み。逆風化で日本の端末メーカーが事業を縮小したり断念したりする動きが相次ぐ。また端末出荷が低迷する中、電子部品メーカーに対する値下げ圧力がさらに強まる可能性がある。新常態に入ったスマホ市場を生き抜くためには、端末メーカー、電子部品メーカーともに新たな戦略が必要になる。(阿部未沙子、山田邦和)

23年に入り、日本の携帯端末メーカーが相次いで事業撤退や縮小を決めた。京セラは25年3月末までに一般向けスマホからは一部撤退し、法人需要の多い高耐久性スマホなどに集中する方針。またバルミューダは次期モデルの開発は困難として、スマホ事業からの撤退を決めた。

ほかに富士通の携帯端末事業を引き継いだFCNT(旧富士通コネクテッドテクノロジーズ)を含む3社は、東京地方裁判所に民事再生法の適用を5月末に申請した。

矢野経済研究所(東京都中野区)は「差別化要素を持たないメーカーが生き残るのは難しい」と指摘。実際、イメージセンサーを開発し、カメラ性能で他社との差別化を図れるソニーは事業を継続できている。ただ京セラやシャープを含め、国内メーカーは世界市場で存在感を高められずにいる。

FCNTはスマホシリーズ「アローズ」の最新機種「N F-51C」でリサイクル素材を多く採用した

FCNTに関しては、中国レノボ・グループが事業を継承することを決定し、10月1日に端末の開発や販売、サービスを再開した。FCNTは「レノボとのシナジー効果に関して、戦略や施策への落とし込みが始まった段階」とする。レノボにとっては「FCNTが持つNTTドコモとのつながりを獲得できるのが利点」(MM総研の横田英明取締役副所長)とみる。

ここに来て日本の携帯端末メーカーが苦境に陥った背景には、原材料価格の上昇や円安の進行などがある。さらに見逃せないのが、足元のスマホ需要の停滞だ。米調査会社IDCは、23年のスマホ世界出荷台数が前年比4・7%減の11億5000万台になると推測。過去10年間で最低水準となる見込みだ。

使いやすさ・環境配慮などで差別化

国内外のメーカー各社は使いやすさや環境への配慮などを訴求し需要創出を図る。米アップルは新製品「iPhone(アイフォーン)15」シリーズで、端子を汎用型の「USBタイプC」に切り替えた。またレノボ子会社の米モトローラ・モビリティは日本市場で折り畳めるスマホを投入。シャープやFCNTは再生プラスチックの利用割合を高めたスマホをアピールする。FCNTは「リサイクル素材の利用割合を大々的に打ち出すのは初めて」と話す。

需要喚起のためには端末の改良だけでなく、通信技術の発展という後押しも必須。カギとなるのが、第5世代通信(5G)のさらなる普及拡大だ。同時に多数の接続ができ、高速・大容量、そして低遅延の通信が可能となる。MM総研の横田副所長は「5Gネットワークが使えるようになることで、新たなコンテンツや端末が出てくるだろう」と推測し、消費者のスマホに対する購買意欲の向上につながるとみる。

電子部品

買い替え周期延長響く 値下げ圧力強まりも

「『価格引き下げ』がアップルからの要望リストの筆頭に再び上がってきた」。同社と取引のある電子部品メーカーの関係者の1人は足元の状況をこう話す。アップルが9月に発売したアイフォーン15は、最上位機種のドル価格が5年ぶりに値上がりした。だが部品メーカーへの値下げ圧力はコロナ禍の過去約2年と比べて強まったと、この関係者は指摘する。

コロナ禍以前のアップルは桁外れの調達力を背景に、厳しい価格要求で知られた。最先端の部品を採用される利点がある一方で、2ケタ%の値下げを要請されたり、汎用品で複数の同業と競わされたりした経験を多くの部品メーカーが持つ。それが「コロナ禍で供給網が混乱し、部品の確保が最優先になった。約2年間、ほとんど値下がりしなかった部品もあるのではないか」(関係者)。

コロナ収束が近づいているとの認識が広がり、供給網も正常化が進む今回は、価格要求もコロナ禍以前に戻り始めた。関係者は「汎用品以外の部品の値下げ幅は1ケタ%にとどまり、コロナ禍の『積み残し』が加えられることもなかったようだ」としつつ、「来年以降のアップルの部品調達方針は分からない」と話す。スマホ市場全体の成長が行き詰まっているためだ。

香港の調査会社カウンターポイントリサーチは米IDCと同様に23年のスマホの世界出荷台数は過去10年で最低になると予測した。インフレで消費者が支出に慎重になっていることもあるが、機能の成熟化や中古市場の拡大を背景にスマホの買い替え周期が延びている構造的な側面がより深刻だ。

市場が伸び悩む中、アップルは販売台数より単価を高める戦略を追求してきた。ただ単価を高めても利益が伴わなければ意味がない。最大市場の一つである中国の地方政府や国有企業がアイフォーンを含む海外スマホの使用を制限し始めているとの報道もある中、部品メーカーへの値下げ圧力がこれまで以上に強まる展開もある。たとえスマホ市場が短期で急速に縮小しなくても、電子部品メーカーが従来と同様の利益率をスマホ向け製品で確保するのが難しくなる可能性が出てきた。

シェア向上・周辺機器への拡販カギ

電子部品メーカーが取り得る対策の一つがシェアの向上。TDKはシリコン負極の導入でエネルギー密度を上昇させた電池製品を投入。中華系スマホ向けでシェアが上昇した。

スマホと連携する周辺機器への拡販も期待出来る施策の一つだ。アイフォーン15は一部機種で3次元ビデオ撮影が可能になり、アップルのゴーグル型端末「ビジョンプロ」との連携が示唆された。周辺機器とつなぐことで全体の価格性能比を改善し、それぞれの販売増につなげようとの戦略があると見られる。アイフォーンより製品単価が高いビジョンプロで狙い通りの販売が期待できるか不透明な面もあるが、電子部品メーカーには市場拡大につながり得る。

スマホの使い方が変わることで生まれる新たな需要への対応も有効だ。米グーグルは同社の新型スマホで生成人工知能(AI)を使った画像加工などのサービスを拡充。独自開発の半導体を搭載し、複数の画像を合成して最適な1枚をつくることができる。「アイフォーンより高性能な半導体の搭載がない限り、先端的な電子部品の需要も期待できない」(関係者)との声もあるものの、電子部品メーカーはまずアイフォーン以外のスマホで「新製品、新技術の導入を実現し、成熟化した段階でアイフォーンへの採用を狙うアプローチなどが求められるのではないか」と野村証券の秋月学アナリストは指摘する。


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日刊工業新聞 2023年10月12日

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