富士通、新光電気売却へ最有力候補にJIC浮上…合意へのハードルは?
富士通が売却を目指す半導体パッケージ基板製造子会社の新光電気工業をめぐり、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が最有力の売却先候補に浮上している。直近の株価にプレミアム(上乗せ幅)を付けた価格で売却したい富士通と、買収価格を抑えたいJICが合意できるかが焦点。JSRに次ぐ半導体関連企業への政府系マネー投入の正当性についても広く理解を得る必要があり、ハードルは多いが、年内の交渉成立を目指す。
富士通は携帯端末や個人向けパソコンなどのハードウエアを主力としてきたが、米アップルや中韓勢との競争激化、2010年代から事業再編を進めてきた。ハードウエアから脱却し、ソフトウエアを軸とした企業や自治体のデジタル変革(DX)支援に経営資源を集中。シナジーの薄い事業を「非中核」と位置付け、近年も売却を行ってきた。22年10月にはいずれも筆頭株主の新光電気や富士通ゼネラル、FDKの持ち株売却を検討していることを明らかにした。
このうち23年3月末時点で発行済み株式の50・03%を保有する新光電気については今年に入り、1次入札を実施。JICのほか、複数の米系投資ファンドが買い手候補として残るが、JIC陣営が最有力と見られる。
新光電気はIC(集積回路)チップを保護して電源を供給したりする半導体パッケージ基板を手がける。高性能なパソコンやサーバー向けに需要が高まるFC(フリップチップ)型と呼ぶパッケージで世界シェアの約17%(日刊工業新聞の推定)を占め、同業のイビデンに次ぐ2位級に位置する。
経済安全保障の観点からも海外ファンドより国内ファンドによる買収提案を優先したいとの考えが富士通側にあるため、JICを最有力候補に挙げる。富士通が保有する新光電気の株式全てを売却する選択肢のほか、買い手側が株式公開買い付け(TOB)で発行済み株式全てを取得して新光電気を非上場化する可能性もある。
ただ交渉成立に向けたハードルは多い。一つが金額だ。TOBに加わる少数株主の立場を考慮して、現在の株価にプレミアムを付けた価格で売却したい富士通に対し、JICは新光電気の直近の時価総額(約7400億円)の半分程度を出資可能金額の上限としているようだ。ファンドや事業会社との共同買収も検討されている。
JICは6月、半導体材料のJSRの買収を発表した。買収総額1兆円のうち5000億円程度を出資する予定。昨年、国際競争力の強化を目的に大規模な事業再編に投資するファンドの投資枠を2000億円から9000億円に広げたが、JSR買収分を除くと残りの投資枠は4000億円程度とみられる。
足元の半導体不況の影響を受けている24年3月期も連結営業損益で350億円の黒字確保を予定する新光電気を買収する妥当性や今後の成長戦略について市場などへの丁寧な説明も求められる。
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