「柏崎刈羽原発」再稼働へ前進、東電HDがテロ対策4項目是正
津波対策・事故時訓練など徹底
10年以上停止している東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市・刈羽村)の再稼働が一歩前進した。テロ対策の不備により原子力規制委員会から改善を求められていた4項目すべての是正が、先週までに完了したためである。規制委の山中伸介委員長は「検査は最終段階に入った」と話しており、2021年4月に出した事実上の運転禁止命令を解除するか否か判断する見通しだ。(根本英幸)
柏崎刈羽原子力発電所の6号機と7号機は13年に東電が規制委に審査を申請し、17年に合格した。ところが21年3月に、他人のIDカードで中央制御室に入ったり、核物質防護設備の機能の一部が喪失したりする事案が発生。これを受け、規制委は同4月に核燃料物質の移動を禁止し、27項目の是正を東電HDに要請した。
検査の結果、規制委は今年5月までに、4項目以外の改善を認めた。さらに東電HDは先週までに、残る「情報を共有する仕組みの実効性」「一過性でない取り組みの実践」など4項目の是正が完了したと報告した。
実際に敷地や建屋に入る際は、IDカードや生体認証など複数のチェックを受ける。また気象や動物による誤動作を起こしにくいセンサーに交換。今後は立入制限区域を見直すなど、核物質防護機能を強化する計画だ。
最初に再稼働を計画する7号機は、さまざまな機器の健全性確認を実施した。例えば放射性物質を含む蒸気を格納容器外に流れないようにする「主蒸気隔離弁」や、原子炉圧力を低下させて注水できるようにする「主蒸気逃がし安全弁」などである。
福島第一原子力発電所の事故を教訓とした津波対策も実施。海抜15メートルの防潮堤を建設し、建屋や重要設備への浸水防止を徹底した。非常用電源が使えない場合も原子炉を冷やし続けるために、消防車38台や電源車20台などを用意。原子炉建屋に放水して放射性物質の拡散を防ぐ大容量放水車・放水銃なども装備した。
「長期停止に伴い、6・7号機を運転した経験のある所員は半数に減った」。こう語るのは、東電HDの稲垣武之常務執行役柏崎刈羽原子力発電所長。最後の6号機が停止したのは12年3月であり、運転技術の伝承が課題だと強調する。
このため6・7号機のシミュレーターを使い、事故時の訓練を繰り返す。東電グループと中部電力が折半出資するJERAの火力発電所に所員を派遣し、実際に設備が動いている中で現場の経験を積ませている。
燃料装荷前までに行う検査は「最終盤に来ている」と稲垣所長。ただ今後も、原子炉起動前と営業運転開始前の二つの検査が待ち構える。再稼働に向けて「柏崎市や刈羽村はもちろん、新潟県の了解をいただくことが大前提だ」と語る。
7号機の再稼働により、東電HDは年1200億円の収支改善が期待できる。現在稼働中の原発は西日本にある加圧水型炉だけであり、東日本に多い沸騰水型炉の7号機が再稼働すれば、逼迫(ひっぱく)する東日本の電力需給の改善に貢献する見通しだ。