ハイエースが走る。トヨタの水素エンジン開発が新ステージを迎えている
トヨタ自動車の水素エンジン開発が新たなステージを迎えている。モータースポーツの厳しい環境で磨いた水素エンジン技術を生かし、10月末に豪州の公道で走行実証を始めた。期間は2024年1月まで。耐久レースと公道の両面で、車両の開発や顧客の利用に関する課題、運転性能、耐久性などを評価する。水素社会や脱炭素の実現に向け大きな一歩を踏み出す。(名古屋・川口拓洋)
豪メルボルン市郊外の公道で気体水素を燃料とする商用バン「ハイエース」が1台走行する。約4カ月間の実証では建設会社や警備会社など複数の事業者が一定期間、水素エンジンのハイエースを活用する。
「想定外の課題を把握するのが目的。車両のパッケージは従来のエンジン車と同じだ。市販化を目指していきたい」と豪州での実証について意気込むのはトヨタの中嶋裕樹副社長だ。
豪州は水素の原料となる天然ガスや石炭が豊富。物流ではバンを多く利用し、町中や郊外、高速道路など道路環境も多様で多くのデータが取れるという。日本国内にも水素エンジンハイエースを1台用意し、豪州での課題を日本国内で検証。現地にフィードバックするなどして開発を加速する。
ハイエースの車両は通常は排気量2・8リットルのディーゼルエンジンだが、それを同3・5リットルの水素エンジンに変更した。水素エンジンは二酸化炭素(CO2)を排出しないものの、窒素酸化物(NOx)が出る。NOx対応のため尿素で浄化する機構も車両に搭載した。中嶋副社長は使い勝手について「水素エンジンだからといって、使用する側が何も変わらないことが大事」と説く。
燃料電池車(FCV)に比べ、水素エンジン車は航続距離が200キロメートル程度と改善の余地がある。トヨタにはハイブリッド車(HV)の技術があり、HV化することで走行の一部をモーターで補い航続距離を延ばすことも想定する。
トヨタでは21年からスーパー耐久レースの現場での水素エンジン開発を本格化した。豊田章男会長自らが水素エンジン車のハンドルを握り、爆発しやすく危険という水素のイメージを「未来を感じさせるもの」へと変えてきた。
豊田会長は公道での走行について「水素に対する社会の認知度は上がった。BツーB(企業間)の実証レベルだったものがBツーC(対消費者)の世界にも見えてきた」と話す。市販への道がまた一つ前に進む。
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