ロボットが調理するそうめん専門店、イトデンエンジニアリングが開業した狙い
イトデンエンジニアリング(兵庫県姫路市、伊藤寿社長)は、ロボットが調理するそうめん専門店「ROBO DINING 手延べの掟」(同市)を7月に開業した。本業で培った産業機械の設計や製造のノウハウを生かし、「人が作るよりもおいしく」をテーマにロボット調理で顧客を満足させる技術を追求する。食品機械の開発の場としても活用し、成長市場であるフードテック分野への進出につなげる狙いだ。(神戸・会津陸人)
人通りのある姫路市内の商店街の一画に店を構えた。店舗面積は約149平方メートル。歩行者が窓の外から厨房(ちゅうぼう)をのぞき、ロボットの手際の良さを楽しめるようにレイアウトを工夫した。
各テーブルに設置したタブレット端末から注文を受けると、そうめんをストックした自動計量器が動き出す。麺の種類や量、硬さといった個々の注文に応じて、ゆで機に麺を投入していく。麺がゆで上がると協働ロボットが洗浄機に移し、洗浄と締めの作業が始まる。盛り付けは店員が担うが、調理工程は全て自動。出来上がったそうめんは配膳ロボットが来店客のテーブルまで運ぶ。
システム開発で頭を悩ませたのは麺のゆで方だった。ゆでる工程では、麺が絡まないようにほぐさなければいけない。イトデンエンジはゆで機や火力調整などで沸騰時の気泡の大きさを制御し、釜内で麺を踊らせる方法を確立。人が手作業で混ぜる動作を正確に再現した。
ロボット調理で最もこだわったのが洗浄工程だ。そうめんは伸びやすいため、麺に付着したぬめりを落とす作業と、冷水による締め作業を短時間で行うことがおいしさに直結する。そこで同社は超音波とマイクロジェットバブルを組み合わせたハイブリッド型の食品洗浄機を開発した。冷水の中で2種類の洗浄を同時に起動。洗浄を12秒で終わらせて麺ののど越しを確保する。超音波の周波数や出力の調整を試行錯誤し、麺を傷付けない洗浄を可能にした。
そうめん店の開業には経済産業省の事業再構築補助金を活用した。しかし、厨房向け設備は本業の工場向け設備と異なるノウハウが求められ、装置設計や協働ロボットの設置などで苦労した。若手設計者にとっても大きな挑戦だったという。伊藤社長は「ロボット調理の開発は装置を作り込む良い経験になり、設計者としての知見を広げることにつながった」と評価する。
地域文化への貢献もそうめん専門店を始めた目的の一つ。姫路を中心とする播磨地域は、そうめんのブランド「揖保乃糸」発祥の地だが、生産者の高齢化で産業の担い手不足が深刻化している。ロボットを使ってそうめん文化を盛り上げることで「若年層の需要を増やし、担い手問題の解決に寄与したい」と伊藤社長は語る。
今後は、そうめん店を足がかりにフードテック分野への本格進出を見据える。「人よりもおいしく調理するロボット」開発で付加価値を生み出す。その第一歩として、ロボットによるおいしいそうめん作りに全力で挑む。