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小麦価格高騰、供給不足…フードテックは解決の一手になるか?

日本総合研究所創発戦略センター 三輪泰史氏インタビュー

天候不順やサプライチェーンの遅滞、情勢不安から、小麦をはじめとする多くの食料品の値上げが続いている。穀物だけでなく、魚介類などの供給も不安視される。この状況で注目が高まっているのがフードテックだ。ここ数年で技術革新が進み、市場へ浸透しはじめている食品も出てきた。農林水産省の食料・農業・農村政策審議委員会も務める、日本総合研究所創発戦略センター エクスパートの三輪泰史氏にフードテックを取り巻く現状について話を伺った。(聞き手・昆梓紗)

深刻化する食料安全保障問題

―食品の値上げ、ウクライナ危機、燃料価格高騰など、食料品を取り巻く状況が深刻さを増しています。
 情勢不安や天候不良による穀物不足は、小麦の高騰やポテトショックなどで実感している人も多いだろう。また、これに伴って家畜のエサも高騰、ミートショックも起きている。小麦をはじめ食料品の価格は高騰しているが、今後さらに値上がりすることが見込まれる。
 供給不足に加え、需要も増加している。例えば中国は食料輸出国のイメージがあると思うが、ここ10年でさまざまな品目において輸入超過に転じている。これらのフードセキュリティ(食料安全保障)問題に対し、農水省も緊急事態食料安全保障指針における「早期注意段階」を適用。日本でも食料危機が差し迫っていると言える状況だ。

―これに伴い、フードテックの注目も向上しています。
 フードテックはそもそもニッチなニーズから立ち上がった側面が強い。例えば植物肉はハラル、ヴィーガンなどのニーズを満たすものだった。その後、環境に優しい・サステナブルという側面が注目されはじめ、市場がじわり拡大しつつあった。これまでだと「自分には関係ない」とフードテックを捉える人が多く、それが事業者にとってはハードルになっていたが、市場拡大に伴い、意識せずに口にする機会が増加している。今後フードセキュリティの観点からも、国内でサステナブルな食料を生産することが重要となり、フードテックが市民権を得る後押しになっている。

―フードテックの中でも、大豆ミートなどの植物肉はここ数年で市場拡大し、技術的にも進化していますね。
 ビジネス的にはスタートラインに立った段階だろう。ただ今後は、先進する欧米モデルの模倣では日本の食文化の中でのブレークスルーは難しいと思われる。その中で、日本ならではの植物肉を開発しているのがDAIZ(熊本市中央区)。同社の植物肉は発芽大豆を使用し、原材料の良さを生かし、味や食感がよく、栄養価が高いのが特徴だ。
 また、欧米では、牛や豚などの畜肉と並列で植物肉を選択する文化ができつつある。しかし、日本人は昔からさまざまな大豆加工品を食してきた文化を持つので、大豆加工品の一種として植物肉を捉えた方が抵抗なく受け入れられるのではないか。

―ただ、国内で植物肉などが製造されたとしても、原材料が輸入品であればフードセキュリティ上のリスクが伴います。
 (フードセキュリティ解決にあたり)フードテックが万能というわけではない。ただ、農水省では植物肉など向けの国産原材料増産の動きが高まっており、日本の農業にとってはチャンスにもなりえる。海外で生産された原材料をタンカーで運んできて加工するよりも、水資源も豊富な日本で地産地消した方が環境負荷は低い。消費者側も植物肉受け入れの次のステップとして「国産原材料を使用しているか」を気にするようになれば、この動きはより活発化するだろう。

―消費者は情報をどう取得していくべきなのでしょうか。
 現在、植物肉にフォーカスした規制や認証がなく 、一つの側面だけを切り取って良く見せていることがある、ということをまず知ってほしい。小売店や関係団体などが客観的な情報を補うことが必要であり、国でも製品ライフサイクルの見える化に本腰を入れ始めている。これが拡充されれば日本のフードテック商品の良さがより鮮明にわかるようになるのではないか。

日本総合研究所創発戦略センター エクスパート 三輪泰史氏

日本版フードテックの勝ち筋

―他に「日本ならではのフードテック」として強みをもつ商品は。
 世界的に小麦の価格が高騰しており、小麦を増産すると相対的に他の穀物の生産量が下がる。すると家畜飼料向けの穀物が減り、食肉不足が起こる、といったように、バランスが崩れると穀物や畜産需給全体が崩れてしまう。この連鎖から唯一、隔離されていると言えるのは日本のコメであり、これはコメの生産者にとってチャンスでもある。実際、米粉の利用用途は拡大している。気候風土に適し、農業に寄り添ったフードテックの姿が日本の勝ちパターンになるだろう。

―日本の食文化で欠かせないものとして魚介類がありますが、こちらも陸上養殖などの技術が進んでいます。
 燃料の高騰により漁に出る方が赤字になってしまう場合もあり、温暖化の影響による不漁は長期化が避けられない。沿岸部や湖での養殖は面積的にも環境負荷の側面でも限界がある。これらのことから陸上養殖の重要度が高まっている。
 現状、陸上養殖の主な対象は海面での管理が難しい魚や高級魚だ。一方で、ハードルは下がってきており、鯛やサーモンなど身近な魚の養殖も行われるようになってきた。コストはかかるものの、味や大きさを均一にしやすく、寄生虫リスクも低減できるメリットがある。

―今後「日本版フードテック」に向いていると考えられるものは。
 クロレラ、ユーグレナなどが代表例の藻類は日本人に受け入れられやすい。自然由来の成分としてサプリメントや健康食品での伸長が見込まれる。逆に難しいのが昆虫食。当職が参加した消費者調査では、見た目で避けるというよりも「食べたことがあるか」という経験が受け入れを左右することが分かり、まだ普及までの壁は厚い。
食用としてブレークするのは先になるかもしれないが、まずは養殖飼料としての普及が期待されている。フードテックでは直接の食用ではなく、「ひとつ裏に回る」ような技術の活かし方や工夫が広がることも必要だ。

―3Dフードプリンターやフードロボットなど、フードテックの裾野が広がっています。
 3Dフードプリンターを病院食や介護食に導入する動きがある。食感は難しいが、見た目や味、嚥下性に優れた食品を作り出すことができる。また、一流シェフが監修したメニューを再現するという取組みもなされている。
この価値の再現性はフードロボットにも見られるようになってきた。もとは効率化のために導入されることが多かったが、一流シェフの技術を再現し、加えて客に合わせた細かいオーダーにも対応できるようになれば、新たな付加価値を生む可能性がある。

<書籍紹介>
書名:図解よくわかるフードテック入門
編著者名:三輪泰史
判型:A5判
総頁数:176頁
税込み価格:2,420円
人口増に伴う食糧・栄養不足への処方箋として注目集まる「フードテック」の全容と、それを支える基盤システムや要素技術、市場性をまるっと紹介。大豆ミートや食用藻類など代替素材の開発動向や、ITを駆使した生産体系を詳述。食の安心と安全を守る仕組みにも迫る。

<執筆者>
三輪泰史(みわ やすふみ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート
農林水産省の食料・農業・農村政策審議会委員、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)アドバイザリーボード委員長をはじめ、農林水産省、内閣府、経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構などの公的委員を歴任

<販売サイト>
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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
2020年末にかけて大豆ミートについて取材したのですが、そこから一時のブームではなく定着フェーズに入りつつあるように思います。米粉も一般化しフードテックという意識はなかったですが、この状況下で日本人になじみのある食品に改めてスポットが当たる機会が増えそうです。

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